記憶喪失
「カイルが記憶喪失?」
「はい、」
「…惚れ薬か何かじゃなくてか?」
「そうですよ〜」
何やら、背中にピットリとカイルをくっつけたカナタが、とてもいい笑顔で頷いた。
そして、その背中にくっついているカイルも幼くも満面の笑顔を浮かべている。
場所は会議室、―――――緊急会議『トランの英雄様の様子がおかしい』と銘打たれた場の事である。
カナタ的には、問題のない事態だったのか、自発的な会議は行われずに周囲が気付いてようやく対策を練っている所であった…。軍の中で重要人物が全員集合しているという、重大な会議だ。
「なんか、全部記憶飛んじゃってるみたいで☆」
「ぐっ!;」
「シュウ殿っ!;」
「お気を確かに!;」
あはvと軽く頭を掻きながら言った少年に、胃痛でシュウが倒れ、担架で運ばれて行く。…もう一人、フリックも倒れそうになっているが、こちらはまだ多少の免疫があるのか一息には意識が飛ばなかった。
「…で、今のその状態は何なんだ?」
「え?」
「………」
きゅ〜っとカイルが抱き着いているというおいしい状態の事だ。それに対して、カナタはう〜ふ〜ふ〜vとばかりに笑みを浮かべながら答えた。
「え〜っとv刷り込み効果みたいですvv」
真っ白な記憶の状態で、カイルが最初に見た物が少年の姿だったのだろう。ちなみに、刷り込み効果 とは鳥の雛とかが最初に見た物を何でも自分の親だと思い込む効果の事である。
「で、なんでそんな事になったんだ〜?」
「それは僕にもわからないんですけど、」
言葉を区切り、懐を探り出した少年に、ビクトールはどういう事だ?と(楽しそうな)視線を送る。…そして、差し出された物は…
「…催眠術教本?」
「そう読めますね、」
…催眠術で記憶がなくなったのか?
会議に集まったメンバー達は一斉にそう思った。
「催眠術なら何かの合図で解ける物なのでは?」
「それなんですけどね〜クラウスさん、」
「まさか解く気がないとか言うなよ〜?」
「いや、そうじゃないんですけど〜v」
説得力のない表情に、一番端の席に座っているルックが、ぴくりと手に持っている杖に力を込めた…。
「合図忘れちゃったみたいでv」
ガンッ!!
…別に、まったく悪気のない少年に、物が投げ付けられた訳ではない。いや、この少年が同盟軍リーダーという特殊な地位 についていなければ、まっ先に血祭りに上げられてはいただろうが、この音は一同が机に頭をぶつけた音である。
「…どういう事ですかな?」
「なんか…こう…一緒に催眠術にかかっちゃったみたいなんです♪あっはっは☆」
あっはっは☆ではない。
「そんな訳で、しばらくカイルさんこのままで過ごしますから!別にこのまま僕好みに育てるなんて育てゲーみたいな事は考えてませんから安心して下さいねv」
「い、いつもの手段じゃダメなのかッ!?;」
破れかぶれでフリックが叫んだ…。
いつもの手段とは、まさにマウストゥーマウス(?)、つまりは愛の熱烈キッスの事である。
「――――フッ…」
少年の漏らした不敵な笑みに、…一同は一斉に黙りこくった。
「こんなおいしい状態のカイルさんに、僕が何もしないで過ごしたとでも!?」
ああああああああああああああああ…;
…無性に頭を掻きむしりたくなる衝動だ。
何をした!?どこまでした!?それでどうして治らない!?
という悲鳴と苦悶で会議は幕を閉じた………。
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