この色が野依さん、この色が海月担当地区です☆


 

Scene 9:一瞬の解決

 

 

一方その頃、人目もはばからず通路のど真ん中で昼ドラをまだ続けているイチハとユノの姿がそこにあった。

「きみ以外の手に汚れた体をいつまでもきみに見られたくないんだよ…!」

「だからってこんなところで自害しなくても良いでしょーが!!;」

しかも余所の2主の城だ。

どこから取り出したのやら…装飾の施された短刀を鞘から抜き、首に這わせようとしている。その腕を懸命に引っ張っているイチハだが、力の均衡はほぼ等しく、……ユノが拮抗するように力を調節しているとしか思えないが、イチハがそれに気付く事は無かった。

「だから俺はもう気にしてませんから! 別に良いですよカナタさんぐらいッッ」

しかも、こちらはこちらで、だんだんと言っている事が無茶苦茶になっているのにも自覚が無い。

嫉妬しているのか嫉妬していないのか…どっちなんだよ! と、ツッコむ人間があいにく錯乱している当人だった…。

「…自分が許せない…! きみへの想いは淋しさに揺らぐ程度じゃない……なのに僕は…」

「だからもう良いですって…やっちゃったもんは仕様が無いでしょ」

「……………、…やっぱりカナタ君にもカイルさんにも死んで詫びるよ」

「何でそーなんだよ!!!!!;」

イチハがあまり妬いてくれず、あまつさえ「仕様が無い」などと他人事のような事を言ったからだろう、ユノはもう一押しとばかりに再び涙を落とし短刀を握った。

何故ならイチハの態度は過ちを犯した恋人にただ寛大なのではなく、…カナタならこう言っただろう――「イチハさんはユノさんに愛がありませんーーー!!!!」…と。

イチハとしては、ただユノが自害などしないよう懸命に説得しているつもりだったのだろうが…如何せん素直じゃないのと天の邪鬼な性格、そして不器用な言葉遣いは致命的だった…。

「イチハに、これから一生腫物に触れるような態度を取られるぐらいなら…今きみの腕の中で死にたい…」

「死ぬとか言うなよ! どっちかと言やぁカナタさんが死ぬ べきでしょ!!」

だがあともう一押しが功を奏したのか、といとうイチハの口からそれらしき台詞がついに出た。

本人はまだ気付いていない。

「……どうして?」

ユノは不自然にならないよう涙を目に溜めたまま、静かに問い掛ける。

「え? どうしてって……」

「どうしてカナタ君が死ぬべきなの? 浮気をしたというなら僕も同罪なのに」

「いや…だって…ユノさんは受け身な訳だし……」

「僕が淋しくてカナタ君を誘ったのかも知れないのに?」

「……、…それはまた別問題として…つまり、その…」

「カナタ君ひとりに罪を着せる事は出来ないよ。それでも、死ぬ べきなのはカナタ君だけなの? どうして?」

「どうしてって…だから…」

「だから?」

「だから…その……」

追い詰められている。

いや、精神的にだけでなく、ずいずいと通路の隅へと。

普通、罪を犯した事で呵責を感じている人間が逆に誰かを追い込んだりするだろうか。そんな素朴な疑問を生む事も許さないとばかりに、ユノはずずいとイチハへ迫ってゆく(ただし、あくまでもその表情は今にも涙を流してしまいそうな程に脆く崩れてしまいそうな悲しみの色だが)。

「…だから……だから、」

何だかおかしな事になってきたぞとイチハも半分は気付きかけているものの、ユノの気迫に押され、しどろもどろだ。

今回こそいける…!ユノは内心でほくそ笑み、哀れな2主をさらに追い詰めようと――しかけたところで、

 

「もう酒場は壊されるしウェイターは逃げ出すし…ちゃんと賠償してくれるんでしょうな?」

「もちろん責任はきっちり取らせます」

「それなら良いんですが…」

こちらの城の軍師と、明らかに一般人の装いの中年がこちらへ向かって歩いてきているのが見えた。

向こうもこちらに気付き、イチハは内心助かった!と思いつつ、取り敢えず挨拶かなと口を開きかけた。

「あッ!? ちょっと貴方!」

「え?」

だが全くの初対面の筈の中年の男はイチハ達を認識するや否や驚愕と憤怒の顔で駆け寄ってくるではないか。思わずイチハは何も悪い事をしていないにも関わらず小心者ゆえにギクリとなってしまった。

しかしその男は――、

「これ、酒場の代金と修理代! 耳揃えてキッチリ払って下さいよね!!」

「……………」

イチハへは脇目も振らず、何とユノの方へ、1枚の紙切れをビシっと突き出したのである。

「えと……どういう、事ですか…?」

無言のユノに代わり、イチハが尋ねる。すると初めて男の視界にイチハが映り、

「どうもこうもありませんよ! 昨夜こちらの城のカナタ様とお連れ様のこちらの方が、酒代57万ポッチを踏み倒したんですよ! 酔っ払ってウェイターに絡むわ、酒場を破壊するわ、挙げ句に代金を払わず店を出ていってしまうわ…何とかこれを手がかりに、死に物狂いで探していたんですよホントにもう!」

 

そうまくし立てて酒場の主人は背負っていた荷物袋から人物特定に至ったという代物を取り出してずずいと目の前に突き付けてきた。

――2主愛用の赤い服と首元に巻く黄色の布、そして坊愛用の上着と黒い帯。

どうやらこの主人の証言によると、2人は朝方近くまで飲み明かし、酒場ですっかり出来上がってしまっていたそうだ。酒場の備品を壊しに壊し、そこら辺の客やウェイターに絡みまくり、ついにはユノが自分の上着を脱ぎ、カナタの服を無理矢理剥いだのだとか…。 服を剥がれた反動でひっくり返った拍子にカナタは意識を失い、するとユノは彼の足を掴んで引きずり上機嫌で帰っていったそうだ。

カナタの背中の引っ掻き傷のようなものは、引きずられている間に出来たのだろう。裸で外をうろついていたのだから、当然虫にも刺され放題だ。

「……………」

「……………」

「……………」

「……………」

「ちゃんと払って下さいよ!! 頼みますよもう!」

「あ…はい」

何故かイチハが答えた。

軍師は男に、では軍主を呼んでくるのであちらでお待ちを、と言ってイチハ達の横を通 ろうとする。

タン、とイチハが腕を伸ばしてその道を塞いだ。

「何のつもりですかな?」

「や…ちょっと待って下さい…」

混乱した頭は、すぐには冷静さを取り戻せない。

……よく酔っ払った人が道端のあれこれを持って帰るのと同じで、ユノも別 にカナタを部屋に連れ込んだという意識はなく、そのままいつもの癖でイチハの城に来てしまったのではないか。まあ、イチハが目撃してしまった場面 の言い訳はともかくとして、…つまりそんな状況で最後までやっている訳がない。ユノは何故かやたらに浮気はあった事にしたそうだったが――浮気は、…なかった。

浮気じゃない?

「まずい…」

言ってしまった。

カイルに。

浮気という単語を。

はっきりと。

しかも誤解を解かないまま、カナタはイチハの隙をついていつの間にやらカイルに会いに行ってしまっている。

あの時見た、カイルの表情。

そこへのこのこと姿を現すカナタ。

つまり…、

血。

血だ。血しか想像出来ない;

「…駄目だ…カイルさんを殺人犯にしちゃいけない……!;」

 

イチハは、でももう手遅れだろうな…と思いつつも、その先の部屋へと猛ダッシュしたのであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日談。

 

 

「や〜…死ぬかと思いましたー;」

 

 

またある夜の事…。

カナタとユノは懲りずに、また謎の逢瀬(?)を行っていた。

呑気に呟いた少年は、『あの』惨状を見た者からはどうして?何故?何で?と畏れら れる程ピンピンしている…。

「ああ、カイルさん凄かったものね。まさか、部屋中が血で染まってたなんて…結構 人間って血液流れてるもんだね?」

「そこは感心する部分じゃないですよ〜…イチハさんもマジひびりしてましたもんね…; でも、僕もあの時は原型なくすかと思っちゃいましたですー♪」

そこも笑う部分ではない。

イチハが何を目撃し、恐怖したかという事を語ると、この話が恐怖ノベルになってしまう為語るまい。

「そうは言っても、カナタ君嬉しそうじゃない?」

「やーvわかります?あそこまで嫉妬してくれる何て、何かこーっvドキーン☆って感じ何ですよ♪(後、浮気の疑惑も解けましたし。)…………暫く鉄臭いニオイには恐 怖しましたケド。」

後、肉類とか血の混ざった食品も食べれませんでした。(BYあの惨状を見た者一 同>ユノ除く)

カナタの幸せそうな顔を見て、ユノは笑顔を崩さないものの、頬の筋肉が僅かにぴくりっと動いた。

…何せ、ユノ的には今回の騒動で何の利も得なかったのだ。それどころか、浮気もしていないのに浮気浮気と騒いだ事と、酒を飲み過ぎて記憶を無くした事に、呆れたイチハに、口も聞いてもらえていない…。

不満と鬱憤は溜まりに溜まっていた。

「………思ってたんだけどさぁ、」

「何ですか?」

にーっこりと微笑んだユノに、カナタは首を傾げる。

そしてユノは、

 

「カナタ君てマゾ?」

 

………と聞いた。

「まっ…マゾじゃないですよーッ何て事言うんですかーッッ(泣)」

ギャースと叫ぶ。

「虐め!?虐めですか!?虐め格好悪いですよッ!?(泣)」

「あはは♪」

「ハッ!;もしやッただの八つ当たりですね!?鬱憤ばらしですねッ!?」

「………せっかくもうちょっとでイチハが嫉妬してるの認めようとしてたのにさ…カナタ君だけ幸せそうなのは、ズルいよね?」

笑顔だけなら、そこらの女性全員が束になってかかっても勝てないような、一級のも のだが果たしてその中身は…!…な感じでユノは言う。

「アレは僕じゃなくて!ヘタレなイチハさんが悪いじゃないですかーッ(怒)」

「………」

 

ボコッ(殴)

 

「……ごめんなさいです…」

「うん」

目が笑っていない。

「でもね、カナタ君のツメが甘いからあんな事になったんだと思うよ?」

「濡れ衣ですッ!;不確定要素が原因じゃないですかーッ!; それにっ本気で浮気決定になってたらッ今頃僕は…!」

「この世にいなかったんじゃないかな?」

「あっさり言っちゃ嫌ですーッ!!; 〜〜〜ユノさんッそんな事じゃ今に主坊(= 受け)として認められなくなりますよッッ!!?;」

「……………逆になろうか?(真顔)」

「イチハさんの為にも止めてあげて下さいッッ!!!!;(血の叫び)」

 

ギャーギャー!と夜の闇の中、醜い罪のなすりつけ合い(脱線?)は行われてい た…。

 

 

「…まあ折角だし、どこか行こうか〜」

「酒場以外ですね!」

実のない会話に疲れた…というか、飽きたユノはそうカナタに提案した。そしてカナタも同意する。

「それじゃあ…何か食事出来る所行こうか?」

「レストランですねー♪」

「代金は…行く途中に、敵から採るって事にしてね」

「平等ですケド殺伐ですよ〜;まあいいですケド。」

「所で、カナタ君。(あの煩い)城の人達全員からは、誤解解けたの?」

「あ〜…『誤報』って言ったら、一発で解けました〜」

「へ〜」

他愛ない会話を交わし、敵を薙ぎ倒し、二人は夜の街へと旅立つ。

 

 

………かくして。 "レストランでもお酒置いてあるよね。少し飲もうかな?" …と思ったユノの為に、物語は振り出しに戻るような勢いで締め括られた…。

 

 

 

 

完!