ゲンカクという名を聞けば、少しでも経済関係のニュースや新聞を見る者や、就職のために時事問題を勉強中の学生には、――あの大企業の創立者である、と思い出すだろう。

そして、創立者で『あった』と思い返すのである。

先日のニュースで、創立者ゲンカクの葬儀が盛大に執り行われたと伝えられたのは、まだ記憶に新しい。

世間一般の者に記憶されるゲンカクの名と、その企業の名前。

しかし、そのゲンカクの養子が若くして企業を継ぐ事になったとは、世間には知る由もなかった。

今のところ、その企業と本人を除いては………

 

 

 

 

「あ〜 もーヤダです〜(怒)」

社長室と書かれたプレートの張られた部屋の中、グールグルと高そうなフカフカのイスが回転していた。

…当然、その上に乗る少年も回っている。

ふとすれば、どこからか紛れ込んだ少年が社長室で悪戯しているように見えるが、この少年はれっきとしたこの部屋の主であった。

「児童虐待ですよ〜(怒) 犯罪ですよー訴えてやりますー」

クルクルと、少年は回転しながらそんな事を言う。

…誰もいない部屋の中、一人喋る少年の姿は、一種異様なものがあったりしたが、本人は至って気にも留めていない。

似合わない濃茶のスーツを着せられた少年は、かなりの暇を持て余し、なおかつ不機嫌そうであった。

「あ”ーーーろくでもない大人に囲まれて僕がろくでもない大人になったらいったい誰が責任を取ってくれるんですかーっ 僕の人生僕しか責任取れないんですよ〜(怒)」

少年…カナタは、ゲンカクの養子であった。

養子とはいえ、ゲンカクが亡くなった今跡を継ぐのは少年だというのが筋ではあったが、ゲンカクから彼個人に宛てての遺言では自由に生きれば良いという言葉も見えていた。

それでもカナタが社長の座に着いた理由は一つ。

義姉のナナミが政略結婚の道具にされるのを避けるためだ。

血のつながらない息子を社長にするよりは、遠縁の役員の一人を婿養子に入れて社長にするほうが会社としては都合が良いかもしれない。

…が、そんな事を許すカナタではなかった。

しっかりキッパリとお飾りの社長のイスに座ることを自分から言い出したのだ。

幸い本人が納得して跡を継ぐことを受け入れたのに対して、反対するほどの役員も折らずカナタは無事に形式上の社長となった

 

…しかし。

 

「自分で納得したとはいえ…」

カナタは回転するのを止め、机の上の現代用語辞典を掴むと、足音が近付いてきた扉に向かい大きく振りかぶる。

「ストレス溜まりまくりなんですよーーーーー!!!!!(怒)」

ガスーッ!!と、書類を運んできた(カナタ内ランキング)いけ好かない役員No1のシュウの頭に辞書をぶちあてた。

―――そして、カナタは脱兎と常のごとく、社長室という名の籠から逃亡した。

 

 

 

 

 

社長室から脱出したカナタは、てくてくと大きなロビーを歩く。

「あ”〜〜〜…つまんないです…」

社長なんて名ばかりの、ハンコ押しマッシーン。

そんな自分の立場を悲観していたりはしないが、毎日が退屈で仕方なかったりする。(忙しいが。)

たまにある重要な仕事はというと、限られた一部の企業との会談くらいで、それもそんなに(というか全く)面白い仕事ではない。今日も一件入っているが、サボってやるかとも考え中だ。

傀儡になるつもりは全くなかったので、持ち前の悪知恵を使って何度もこちらの都合の良い提携を結んだりもしたが、会社の利益になるだけで、自分が面白いわけではない。

それくらいなら、雑巾絞り茶をシュウに飲ませる方がよっぽど楽しかった。

「せめてこの会社を自分で丸ごと動かせれば、少しは楽しいかもですけど…」

未成年にベンチャービジネスを任せるほど、この会社は腐ってはいない。

カナタがぼ〜っと独り言を言いながら歩いていると、不意にドンッと肩に衝撃が走った。

「あいたあっ!?」

「あっ」

「坊ちゃん!」

体勢が悪かったのか、カナタともう一人ぶつかった相手は、見事に両者とも尻餅をついてしまっていた。

「ごめんねっ大丈夫?」

「こちらこそごめんなさいです〜;大体大丈夫で、…す。」

すぐに謝ってきたきれいな声に、カナタはいつもなら何すんだこんちきしょー!という内心の苛立ちを覚えることもなく、すぐに自分からも謝罪をした。

そして、顔を上げた瞬間に固まってしまった。

「―――?」

心配そうに眉をひそめる、整った顔立ち。

自分よりも少し年上だと思われる年齢に似つかわしくない――でも似合う――スーツを着た人物に、カナタはブワ〜ッと全身の血液を沸騰させた。

 

(可愛っ…綺麗っ…!?何ですかっ!?この感覚ーーー!!)

 

「大丈夫かな…?;」

「坊ちゃん…そろそろ約束のお時間ですので…」

「あ、うん わかった。」

ごめんね、ともう一度声をかけると、その年上の少年は、受付の方へと歩いて行ってしまった。

その間、カナタは上がりに上がった血圧と鼓動を収めるのに、必死だった。

 

(もしかして…――――この感覚はっ…! 動悸めまい息切れ高鳴りついでに熱っ!)

 

「もしかして恋ですかーーーーッッ!!一目惚れです〜〜〜〜vvvvv」

「いたぞッ!!」

「カナタ社長っ今回の会談だけは逃がすわけには行きませんっっ!!;」

「あ”っ!(怒)何すんですかーーーッ!離せーーーっ!僕はさっきの人とお茶したり恋しあったり、駆け落ちしたりするんですよーーー!!僕の人権と自由を行使ですーーー!!」

「まずは義務を果たしてくださいッッ!(怒)」

「クソ食らっちゃえですーーー!!(怒)」

 

逃亡の最中にあんな大声を上げれば、確実に発見される。

カナタは一瞬にして、役員らにひっとらえられた…。

 

 

 

 

 

皺一つないスーツに着替えさせられ、無理矢理社長室に連れ戻されたカナタは、不満そうに頬を膨らませていた。

「う”〜〜〜(怒)」

「一体何を考えている!」

その傍で、ガミガミガミ!と実際の代理運営者であるシュウ(たんこぶ付)が説教を続ける。

慣れきってしまっているカナタは、全く耳から耳へと声を抜けさせているばかりだ。

「僕はあの人を追いかけたかったのに、何でわざわざオヤジ相手に顔を合わせなきゃ行けないんですか〜…代理立ててくださいよー代理〜」

ぶつくさとむくれる少年に、秘書であるクラウスがまあまあ、と宥めにかかる。

「そういう訳にも行かないんですよ、今日はあのトラン企業との話し合いの場なのですから…それに、相手は若社長ということなので、若い人のはずですよ?」

「ええ〜?」

相手が誰だろうと、嫌なものは嫌という態度を崩さず、カナタは不満の声を上げる。

「とにかくっ、とっとと来てもらおうか!」

「嫌ですー!さっきはビックリしすぎて使えませんでしたけど、いつか運命の人を見つけたら使おうと思ってた必殺武器を使うんですーー!!」

「そんな物は使わずにさっさと会議室に行っていただきたいっ!(怒)」

先程頭に辞書をぶつけられたシュウは、とてつもなく機嫌が悪い。

「ぎゃーーー!!何すんですかーーーっっ!!(怒) クラウスさーーんっ!僕の机の引き出しの宝箱の、一番上のを取ってくださいーーーーっっ!!」

「はいわかりました;」

引きずられていくカナタに、せめて少しでも気分を浮上させてもらおうとクラウスは言われた通りのことをしてやった。

…それが最大の不幸だったのだが…

 

 

 

 

「「あ。」」

 

と、声を上げたのは、どちらの方からだっただろうか。

カナタが引きずられていった先には、(カナタいわく)『運命の人』の姿があったのだ。

「先程は失礼いたしました、」

「いえっ!こちらこそです!!」

「トランから参りました、カイル=マク…」

「僕カナタですーーーーーー!!!!!」

ぺこりと頭を下げた相手の姿を見て、少年はものすごく暴走した。

その勢いに思わず、相手の付き人も引いており、カイルも困ったような、微笑ましいといったような微笑を浮かべている。

しかし、会社の恥をさらすまいと、シュウとクラウスは素早く目を合わせ、――クラウスが背後からカナタの口を塞ぐと――シュウが素早く会談を切り出した。

 

 

何だかよく分からない専門的な会話が流れる中、カナタはぽ〜っvとカイルの顔を見つめ続けていた。

(うわ〜〜〜vv見れば見るほど好みの人です!! むしろLOVE!むしろ愛!!)

カナタは草津の湯でも直せない病にかかっている…。

(ああっ…!まだ名前しか分からないなんて…!!これからずっと僕と一緒にいてほしいのにっっ!!
  ―――クッ! シュウさえいなければ、この場で口説けるのにっ…!>怒 )

※仕事中です。

(ああっ…せめてもっとこの時間が続いたら…!)

そんな少年の願いもむなしく、契約内容はもう先方に伝えてあったため、確認のための会談はもう終わろうとしているところだった。

後はカナタが契約書を渡し、相手先から判をもらうだけで終わるだけだ。

(どうやったらもっとずっと一緒に…―――そうだ。)

キラン☆とカナタの瞳が光った。

暇つぶしに習っていたマジックで、誰にも見られないように手元の契約書の書類を、先程クラウスから受け取った自分の秘密兵器とすりかえる。

そして、口を押さえている手をペシペシと叩いて外させた。

「―――では、ここに判を…」

「ここに押してくださいv あ、サインはここでお願いしますね♪」

急ににこやかになった少年社長に、シュウとクラウスは何事かと嫌〜な顔;になった。この表情を見せる時には、必ず何かをしでかしてくれるのだ。

しかし、相手側にはそんな事をわかるはずがない。

言われるままに、付き人から判子を受け取ったカイルは判を押し、サインを書き記した。

そう…

「これで契約は――――」

「やったーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」

歓声を上げるカナタに、一同は何事だ!?と、慌てて書類を見る。

 

婚姻届、(妻の欄にカイルと記入済)を―――

 

 

「これからはよろしくお願いしますカイルさん!!(僕のお嫁さん!!)」

「え??あれ??;」

 

坊ちゃんーーーー!!やら、このバカ社長ーーーー!!と怒号が響く中、何事が起きたのかまだ理解できていないカイルは、手を握り締められて困惑するばかりだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――な〜んて事もありましたね〜♪」

「うん…;あったね、」

いつでもニコニコ新婚家庭であるあるアパートの一室。

アルバムを見返しながら、カナタは言った。

「今となっては言い思い出です!僕とカイルさんの愛のメモリ〜♪ 恋と結婚は突然に☆編!!」

「うん…;(ビックリしたんだけど…;)」

なんとあの後カイルは流されるままに、戸籍から何から書類に全部記入させられ、籍に入れられてしまったのだった。

当然揉めに揉めたが…まあ何とか今の形に落ち着いている。

しかし、今この場に隣人のシード奥さんがいたら、間違いなく「犯罪だーーーーーっっ!!;」と叫んでくれたことだろう。

訴えたら間違いなく勝てる。

 

「あ、もう晩御飯の時間ですねー♪今日はカイルさんの当番ですーvv肉じゃが食べたいです!!」

「うん、いいよ?」

「わーーーいvvv」

 

まあ…

とりあえず、今の今まで平和な家庭が築けているということは、ハッピーEDの話だろう。

一応会社は潰れず、家庭を持った!という事でカナタがやる気になり、更に大規模な企業に成長させている。(めったに出勤はないようだが)

カナタいわく、

「愛のパワーですーーー!!」

…という事だった。

 

 

 

 

実は新婚ネタ…

使い古された設定のごとく!(吐血)