ドバジャーーー!!

 

…と、ホースで水をかけられているような雨の中、カナタは遠い目で人を待っていた…。

場所は、ラダトの町、その橋の上。

昼間はあんなに穏やかだった川の流れが、今は氾濫しそうなほどの勢いになっている。(今コインなどを投げれば、間違いなくすぐに流れて消えるだろう)

当然カナタはずぶぬれになっていた。

何かの天誅かというくらいの雨の中、それでもカナタはひたすらに人を待っていた―――

 

 

話は三日ほど遡る。

 

 

「え…?;」

 

ある平穏な朝、珍しく実家に戻れていたカイルは、窓からムササビが届けた手紙を見て、首を傾げた。

…確か、隠していた未処理の書類が山のように発見され、軟禁されているはずのカナタからの手紙だったからだ。

「………」

ちなみに、中身はというと、

 

『カイルさんvvv 今日の昼過ぎにラダトの町で待ち合わせてデートしましょう♪
  橋の上で待ち合わせてデートってはやってるらしいですよっ!! BYカナタ』

 

という、とても子供らしい勢いのある字体で書かれた、デートの誘い文だった。

「昼過ぎって…;」

トランからその街まで半日で本当にたどり着けるのだろうか?

カイルは首を捻って考えたが、今からすぐに向かえば何とかなるかもしれない…と思ってみた。

案外楽天的だ。

「はい、ありがとうv運んで来てくれて…」

「ムム〜vv」

手紙を運んできてくれたムクムクにお礼のリンゴを手渡すと、カイルは断ることも出来ないため、すぐに支度を始める。

階下に下り、保護者(母?)兼付き人のグレミオに声をかけようと、厨房を覗いたのだが…

「グレミオ、僕出かけるから…」

「はい、わかりました。今日は特製シチューなので、早く帰ってきてくださいね?」

お玉を持ち、振り返ったグレミオの顔は、妙に赤く、息苦しそうな様子にも見えた。

「…グレミオ? 顔、赤くない?」

「いえ、とんでもないっグレミオはこの通り元気…」

 

バッターン!!

 

お玉が宙を舞った。

「グレミオ―――…! …っパーン!クレオ!ちょっと来てっ!!;」

 

 

 

 

 

「ふっふっふ〜♪久々にカイルさんとのデート〜♪」

ニコニコ顔で橋の上に腰掛け、明らかに浮かれた表情で独り言を言う少年。

ピクニックにでも行こうというのか、手にはバスケットやらゴザやらが抱えられており、気分は最高と言ったところだ。

「こうっステキな花畑でお弁当を食べる二人!舞い飛ぶ蝶や鳥!メルヘンチックなまでのムードでっやがて二人は!!!!!」

…どうでもいいが、カナタの頭は年がら年中花畑だ。

しかし、そんな独り言を叫ぼうとも、周囲の視線は何となく優しげなものである。

…初デートに浮かれる少年、

そんな風に好意的に受け取られているところが、さすが天魁星といったところだろう。

「あ〜♪カイルさん早く来ないかな〜♪♪」

 

 

 

その頃のカイル…。

「すぐにリュウカン先生呼んでくるから、グレミオを頼むッ;」

「は、わかりました坊ちゃん!;」

慌ただしく、別の用へ出かけるところだった。

 

 

 

「………」

とっぷりと日が暮れた頃。

まだカナタは橋の上に佇んでいた。

「う〜ん…;何か遅いですね〜??;何かあったんでしょうか…?――――ハッ!;まさか誘拐…!?カイルさんは誘拐されたんじゃ!!;今助けに行きますよーーー!!…〜〜〜っでもちょっと遅れてるだけだったなら、カイルさんと入れ違いになっちゃいます…!!僕は僕はっ…待ちます!!」

 

 

しかし…

朝が来ても、カイルはやってこなかった…。

 

 

「カナタ〜〜〜っお姉ちゃん心配したのよーっ!? カイルさんとデートって言ってたのにっ二人とも帰ってこなくて…!ビクトールさん達は『朝帰り』??とか言ってたけどっお姉ちゃん二人が誘拐されちゃったのかと思ったのよーっ!―――あれ??カイルさんはどこに行ったの??」

「……………」

カナタは沈黙で答えた。

ちょっと目が遠い。

 

「ええーーーー!!カイルさんが来ないなんて…事件っ!?事件かも…―――あっ!わかったわっ!カナタ!!
  これは、『愛の試練』なのよっ!

「愛の試練っ!?」

ナナミの言葉に、カナタはシャキーン!と復活を遂げた。

 

何時間も待たされ続け、それでも待っている少年…♪

そして、その姿に胸を打たれる恋人(ラバーズ)…☆

 

―――まさにっ王道だっ!!

「それだっそれです!!今待っているのは、愛のための試練っ!?」

「きゃー♪カナタかっこいいわっ!お姉ちゃんも協力するー♪」

「それじゃあテントと野営道具一式と食料持ってきてくれるっ!?」

「任せてっ!」

 

 

 

その頃…

「ただの夏風邪のようですので、この薬を飲んでゆっくり休めばすぐに良くなりますよ」

「よかった…」

「すみません坊ちゃん…それに皆さんも、心配をおかけして…」

「何言ってるんだよ、グレミオ。困ったときはお互い様、」

「そうだぞ、グレミオ」

「そうですね…治ったときには心をこめて、特製のシチューを作らせてもらいます」

「楽しみにしてるね?」

あははははとほのぼのとした空気が流れるマクドール家。

 

 

 

 

まだ一日目はこう笑ってもいられる事態ではあった…。

テントまで持ち込み、人を待つ姿が、忠犬ハチ公のように村中で噂になりながらも、カナタはそれでもカイルを待っていた…。

二日目に入ると、さすがに同盟軍側でも放っておくことができず、勧誘もレベル上げもせずただ人を待っているというのは士気に関わる!と主張してカナタを連れ戻そうとしたのだが…

カナタは当然、暴れに暴れた。

 

「いい加減カイルの所に行けばいいだろうがっ!?」

「何を言うんですかっ!?ビクトールさん!!僕にカイルさんとの愛を裏切れとッ!?」

「いや、誰もそんなことは…;とりあえず、先に城に戻って…」

「フリックさんまでッ! うるさいですーーー!!(怒)僕とカイルさんの仲を裂く気なんですねーーーっ!?僕は一週間でも泊り込む覚悟ですよーーー!!(怒)」

暴走したカナタはトンファーで敵(?)を殲滅し…

橋の上は一気に血で染まり上がった。

 

 

 

その頃。

「病人食…おじやとシチュー、どっちがいいかな?」

「シチューはグレミオが作ると張り切ってますから、おじやにしてはどうですか?」

カイルはクレオと台所でほのぼのとした会話を交わしていた。

 

 

 

3日目の朝…。

その日は朝から、土砂降りだった…。

こんな日は、気分が滅入るのが常というもので、前日から多少の不安を覚え始めても居たカナタは、躁状態からすっかり欝状態になってしまっていた。

 

(まさか…カイルさんはっ…僕のことを嫌いになったんじゃ…!?)

 

そんな胸中で、土砂降りの雨の中…カナタは佇む。

 

 

そして、同じ頃、トランでも同じように雨が降っていた。

普段ならば、雨の日となると、憂鬱になるカイルだったが、この日はグレミオが全快したという事で、珍しくも笑顔で居た。

「さすがにリュウカン先生の薬は良く効きますね、すっかり元気になりましたよ!」

「よかった…」

元気になったグレミオの姿に、ホッと一息をつくカイル。

…しかし、その笑顔は次の瞬間凍りついた。

「そういえば、…坊ちゃん、私が倒れた日に、どこかへ出かけようとなさっていませんでしたか??」

「………」

間。

 

「あ。」

 

 

 

 

―――来ない。

――――来ない来ない来ない…。

 

「僕はもうカイルさんに捨てられたんですーーーーー!!(泣)」

 

ギャーース!(泣)と、雄たけびが雨の中を響き渡る…。

 

 

 

 

「急がないと…!;」

雨の中、多少ムチャな行軍で、カイルは急いで同盟軍本拠地へ向かう。

まさかもう待ってはいないと思うけれども、約束を破ったことで、どんな甚大な被害が起きているかを思いやり、カイルは焦っていた。

「カイル!;」

そんな中、(埒が明かないと判断して)カイルを迎えに着た顔なじみの面々が、向かいから駆けて来るのが見えた。

即座に相手は叫ぶ。

 

「カナタのヤツ、まだお前を待ってるぞッ!!;」

 

それで大体の状況は掴んだカイルも、お迎えの面々の一人に顔を向け、素早く叫んだ。

「――ルックっテレポート!!;」

半分悲鳴のようにも聞こえる声だった…。

 

 

 

 

 

 

「暖かな〜…人のぉー…情けぇをぉ〜…♪」

…何だか不吉な歌を歌いながら、カナタはよいしょっとと欄干の上に乗りあがる。

「ううっ…カイルさんに嫌われた上に、振られるなんて…っ死んでやるーーーッ!!(泣)」

まるっきり身投げである。

そのままカナタは勢いよく欄干の上に立ち上がると、その第一歩を踏み出そうとした!・・・が、

 

「…でも、僕泳げないですし、溺死はイヤですね。 むしろ、死ぬくらいなら、カイルさんを巻き添えにした心中か、死ぬ気で捨てないでもらう方がベストかもです…。」

 

さすがにカナタはカナタだった。

すぐにスイッチが切り替わり、非常に前向きな方向へと思考を変えた。

「というか!捨てられるくらいならっ死んでやるーっ!ってカイルさんの前で言って脅すのがいいかもですね…♪」

脅迫だ。

※良い子は決してまねをしてはいけません。

 

「カナタっ!」

 

そんなときだ。

ようやく待ち人の悲鳴のような声が、タイミングよく聞こえてきたのは。

しかも、見てみると必死に走ってきてくれているのが分かる。

「――――――カイルさん…っvvv」

パァアア…♪と、カナタはそれだけで、カイルを待ち続けていた辛い三日間のことを全て忘れてしまった。

「カイルさーーーーんvvv♪」

「っ…早まらないでっ!!;」

まだ身投げをしようとしているような体勢でいたカナタを見て、カイルは必死に少年の下まで走り寄ると、引き止めるように手を伸ばした。

 

ドンッ。と。

 

「「あ。」」

橋の上。

雨。

滑りやすい。

この見事な悪条件の為に、お約束のごとくカナタの体は見事に宙を舞い、濁流の中へと呑み込まれていった―――…

「カナタッ――――!;」

「僕は死んでも愛は死にませんーーーーっっ!!」

どっぽ〜ん。

 

 

 

 

 

そして…

 

 

「っくしゅ…!;」

 

同盟軍本拠地。

そのリーダーの部屋には、一人の病人が居た。

 

「くしゅんっ!;」

「大丈夫ですか〜?…カイルさん;」

―――そう。カイルだった。

何故だか、カナタはピンピンしており、代わりにカイルが風邪を引いていたのだ…。

まあ、グレミオの風邪をもらったのか、雨の中を走ったからなのか…その両方か…。

「とりあえずっ僕が愛の限り全力で看病しますよーっ♪」

「……………;(家に帰して欲しい…)」←言いようのない不安。

 

 

 

 

→風邪引き看病ネタに続く。(爆)