「ごほごほっ……けほっ」
雨の中を濡れながら走ったために、現在カイルはぼっちゃんラブ城、リーダー自室で療養中だった。
「けほけほ…」
「僕のためにカイルさんが風邪を引くなんて…嬉しいけれどっ心配なので看病ですね!!風邪引いて色っぽくなってるカイルさんの顔は見せたくないので、僕以外の人は立ち入り禁止にしましたし!」
「けほっ…」
ひゅーひゅーと乱れた呼吸を繰り返し、熱の為に上気した頬も、潤んだ瞳も、確かにどこか色っぽさを感じるが、普通は病人の前でそんなことは叫ぶまい。
枕元で騒がれているカイルは、静かにしてほしいと思っているのだろうが、もはやそういう気力もないらしいく、ただ苦しそうに呼吸を繰り返すばかりだ。
「さあっカイルさん僕が力の限り看病しますからね!」
「…ありがとう…けほ、;」
救いがあるとすればだが、カイルの病状は熱と咳だけで、そう酷い風邪ではないというところだけだろうか?
苦しそうに咳き込むカイルを、カナタは何故かキラキラした瞳で見つめ続けている。
「けほ…?;」
「カイルさん、カイルさんっ」
「…な、に?;」
かすれた声で問いかけると…
「汗かいて気持ち悪いから着替えさせてほしいとか、水飲めないから口移しで飲ませるというドキドキ看病イベントはまだですかッ!?」
「………」
カイルは熱で朦朧としながらも、言われたことは理解したので、無言のまま右手を掲げた…。
暗転。
異様に散らかった部屋の中…
カイルはベッドの上に、きゅう…と崩れるように倒れていた。
「あ”いたたたたた…;ちょっと突っ込み激しかったです;」
自分で自分を回復させつつ、 カナタは破壊され、倒れた棚の下から這い出す。
…熱で加減がわからなくなったカイルから、容赦なく紋章攻撃を食らったらしい。
「カイルさ〜ん;謝りますから、看病させてください〜」
「…〜〜…〜…」
「カイルさん?…て、ああ!;悪化しちゃってます!!」
当然といえば、当然の結果に、カナタはさすがに慌ててマジメに看病の支度を整えた。
「ん…」
ひやりとした感触を感じ、カイルはゆっくりと目を開いた。しばらく何がどうなったのかということを考えながら、手を額の上に乗せてみれば、冷たく冷やされた手ぬぐいがあるのが分かった。
「あ。目、覚めましたか??」
ひょいっと視界に顔を覗かせた少年に、カイルは少しだけ驚き、そして何となく納得がいった。
「まだ寝てた方がいいかもですよ??」
カナタの言葉に首を横に振ると、カナタは背中を支えて起きるのを手伝ってくれる。
「水どうぞ〜薬は熱が下がってたら別に飲まなくても大丈夫って、ホウアン先生が言ってました♪」
水を飲みながらカイルはほっとした気分になった。
どうやらハイテンション状態が収まり、まともに看病をしてくれていたらしい。
「熱〜は、あv下がってますねー」
ゴーンと頭を(軽く)ぶつけられ、額で熱を測られても、カイルは特に抵抗をしなかった。
別にあえて恥ずかしいことを言われなかったらこのくらいのことは許容範囲だ。
額から外した手ぬぐいを手桶の中につけつつ、カナタは言う。
「何か食べますか〜?」
「うん…ありがとう…」
にこっと小さく微笑むカイルに、カナタは照れたように満面の笑みを浮かべて懐からリンゴを取り出している。
カナタが普通にしていれば、カイルも木石ではないのだから、看病されれば嬉しいようだ。それなりの雰囲気にもなっていた。
「うさぎリンゴとすりおろしリンゴどっちにします?」
「どっちでも…」
「じゃあ両方作りますね〜♪」
器用にリンゴを半分に切ると、半分をそのままにして残りを割って皮をウサギの耳のように残して切っていく。
「あーんvですーっ」
「………(///)」
さすがにリンゴを差し出されたときにはカイルも恥ずかしかったようだが、少しためらった後には小さく口を開けていた。
シャリシャリとリンゴを食べるカイルの姿は兎よりも可愛らしく見えるのだが、カナタはさすがに鼻血を出すのは堪えた。…欲望よりも、今のムードを選択した瞬間だ。
「…、」
そういえば、とふとカイルは気付く。
「カナタもあんなに濡れてたのに…一緒にいたら移るじゃ…大丈夫…?」
「全然ヘッチャラですよー!それに――」
「?」
カナタは全開の笑顔で答えた。
「もし僕が移ってもカイルさんに看病してもらいますからv」
「………うん(///) そのときは…看病するね?」
「わーーーいvvv」
照れるカイルに喜ぶカナタ。
ほのぼのとした甘い空気がそこには満ちていた。
病気中とは言えども、同盟軍の平和な一コマとなった…。
しかし。
その平和はつかの間のことであり。
汗をかいたカイルの服を脱がし、カナタが代わりに着せたピンクの兎柄(非常に可愛らしい)のパジャマがカイルに気付かれるまでの、…ほんの刹那のことだったという…。