「いい加減にしてッ!(怒)」

 

 

ある、うららかな晴れた日のぼっちゃんラブ城…。

そこでは今、普段は声を荒上げることなどしないはずの人物から、麗しくも真剣な怒声が上げられていた。

「ギャーーーー!!;ごめんないさいですーーー!!;許して下さい〜〜ッッ!!帰っちゃうのだけはカンベンしてくださいーーーッッ(泣)」

無論、縋り付く幼い同盟軍のリーダーの泣き声も、同時に上げられていた。

 

「離・し・て! 帰るからッ!」

「ヤですー!;」

ぎゅうぎゅうと足にしがみついている少年を引き剥がそうとしているカイルは、いつになく怒りの表情を浮かべていた。

まあ、それもそのはず。常日頃、カイルを無理矢理女装させてみたり、寝込みを襲ってみたり、怪しい薬を食べ物の中に混入させてみたり…と、色々と普通なら激怒するような事を普段からしでかしているのだから―――幾らカイルにでも耐え切れなくなる瞬間があるのだ。

「もうカイルさんの像を隠れて作ろうとしませんからーーッッ!!;1/1フィギュアにしときますーーッッ!」

「同じだからッ!(怒)」

…今回の原因はそういうことらしい。

グイグイぎゅうぎゅうっ!!と二人の力がまだ拮抗し、このまま持久戦になるかと思われていたその時…

 

「――――カナタ殿…」

 

申し訳程度のノックの後に、ゆらりと姿を見せた正軍師(一応)シュウは、引きつった笑みでこう言った。

「いい加減、軍の演習に姿を見せてほしいのですが?(怒)」

「今それどころじゃないから断る!(怒)」

どぎっぱり!

―――はっきりとそう断言するカナタに、カイルの最期の堪忍袋の緒が切れた。

 

…よりによって、そんな大事な。

戦争の勝敗に関わるような仕事を放り出すなんて…

 

「…………………カナタ?」

「カッカイルさんっ…!?;」

にこっと氷の微笑を浮かべるカイルは、最終通告を突きつけた。

 

 

 

 

 

 

 

「カナタの奴、遅いな…」

「まだカイルと喧嘩してるんじゃないか?」

すっかり演習の準備が整ったその馬上で、笑いながらフリックとビクトールはそんな会話を交わす。

演習を行うというのにリーダー不在という事態は、彼らにとってそんなに珍しいことではない。

演習といっても、戦闘時の動きを主として居る為、後方支援のカナタは余り関係ないのだ。

…まあ、旗頭が居ないというのは、かなり格好がつかないが。

「シュウも戻ってないが、とりあえず先に…」

演習を始めるかと言いかけた時、城の方から颯爽と馬を駆って表れた赤い人影が見えた。

 

「…リーダー…?」

 

3年前の記憶と全く変わらないその姿を見て、思わず言葉も途絶えた。

そう、まさにこの時がレクリエーションがミッションに変化した瞬間だった…。

かくして騎馬兵、歩兵のみだったはずの演習は、同盟軍全体を巻き込んだ大規模な模擬戦(という名の戦争)と化したのだ。

 

 

 

 

 

『もう…今度という今度はトラン(実家)に戻らせてもらうから。 しばらく顔見せないで』

『ぞんなーーー!!(号泣) 慈悲を!慈悲を下さい〜〜〜!!』

二度と顔を見せるなと言われなかったのが奇蹟だろうと、その場にいたシュウは思ったのだが、あえて口には出さなかった。

『それじゃあ…』

『がいるざーーーーんっっっ!!(大泣き)』

『―――演習を模擬戦に変えましょう、』

ぎゃあああああっ!(泣)と、駄々っ子のごとく大泣きする軍主を見て、これでは使い物にならないと思ったのか唐突にシュウが口を挟んだ。

『それで、カナタ殿が勝ったなら怒りを納めてもらうということでどうですかな?もちろん、カイル殿が勝った場合はこちらで責任を持って、カナタ殿を何ヶ月でも監督、監視、軟禁いたしますので…』

『そんな…!(シュウだけおいしいような事を!?)』

『…そうしようか?』

 

にっこり。(怒笑)

 

まさにこの時のカイルはぶち切れていた。

シュウの『カナタを演習に出させる』という目論見に乗ったのではなく、何もかも破壊してしまいたいという衝動に駆られたのだろう…。

 

 

 

 

 

「―――そんな訳で頑張りましょ〜…あーやる気ないです〜(涙)」

でも、勝たないとカイルさん帰っちゃうし〜と半べそで言う少年の姿は、とてもではないが英気の出る代物ではなかった。

 

「訳わかんねぇ…;」

「カナター!やる気出すのよっ!負けたらカイルさん帰っちゃうなんてお姉ちゃんもイヤよ〜!」

サスケが嘆き、ナナミがエールを飛ばす。

「ナナミぃ〜(涙)」

「カナタ殿、そろそろ説明の方をいたしませんか?」

保父さんのように宥めるクラウスに促されて、カナタはようやく少しだけ気を取り直した。

 

「えーっと、僕とカイルさんの紅白戦が今まさに始まろうとしているんです!
  解放軍メンバーはカイルさん組、その他は人数を合わせた上で、僕組って感じで〜(泣)ううっつまり、主力メンバー全部あっちですー…。後、正軍師シュウが審判で、それぞれの軍師にはアップルさんとクラウスさんが担当してます。」

 

非戦闘員の108星まで集められているというのに、今この場所は静まり返っていた…。

主力であるビクトールやフリックはもとより、ジーンやルックといった強力な魔法使いまで敵側に回っているのだ…。

「――――ちなみに、カイルさんは怒ってます…死なないように気合入れて頑張ってください!」

「死人が出たらその時点で失格というルールも設けられているので、皆さん落ち着いてくださいっ!;」

カナタの言葉に恐慌状態に陥りかけたメンバーらをクラウスが声を上げて宥める。

「まあ、戦力的に言うと、結構僕ら不利なんです。
  ―――故に僕に策有りです! とりあえず今から名前を呼ばれた人はここに来て、円陣組んでください〜」

 

 

 

 

「兵力は同等、勝敗条件は特になく、全滅した方が負け。ただし死人を出さないよう留意していただく。」

 

全滅した方が負けというとんでもないルールに、誰も何も突っ込まなかった(寧ろ突っ込めなかった)…――――これはゲームではない、戦争なのだ。

ただ…

 

(死人を出さないようにってのが難しいな…)

(ああ…;)

 

それぞれの兵卒は、やはり同盟軍のものなので、戦闘になるのかと危ぶんだが………カイルの放つカリスマオーラにやられて、やる気満々になってしまている…。

まあ、剣は刃を潰していあるし、槍も先に布を巻いているので、死人は出ないかもしれない。後の問題は弓矢だが、これは当たり所が悪くないことを祈るばかりだ。

―――ビクトールとフリックの二人はどこともなく顔を向けると、祈るように瞳を閉じた。

…どうか、生き残れますように、と。

 

戦闘開始の合図が鳴り響く…。

 

 

 

 

「シュウ軍師!戦闘開始の合図を送りました!」

「よし、医療班の準備はどうだ?」

「トウタはカナタさんのチームに入っていますが、こちらの準備は大丈夫ですよ」

「なら、保護班!負傷者や戦闘不能になったものはすぐさま保護してこちらへ運び込め!!」

「「「はっ!」」」

倒れたものを彫っておいたら、馬に踏み潰されて大変な事になる。

しっかりと人員を減らさないように気を配りながら、城の展望台でシュウは戦況を見た。

 

カイル側がカイルを戦闘に果敢に攻め立てる中、カナタ側は動かないカナタを後方にして、それを受け止めている。

戦意がないのかと見れば、そういう訳でもなく、皆一様にして「死にたくない!」「勝たねば!」という顔つきで戦闘を行っている。(良いのか悪いのか判断に迷うが…)

そして、突撃!とビクトールとフリックが攻めれば、キバとリドリーが真っ向からぶつかり、

ハウザーが攻めれば、シーナ率いる一隊が翻弄する、

と、中々に五分の戦いを見せていた。

これは長期戦になることは間違いなさそうだと、シュウは審判としての役目を果たさんと気合を入れ、―――ついでに珍しく充実した訓練の結果に、ニヤリと口元を緩ませた。

…やりすぎになって、軍が使い物にならなければ良いが…

 

 

そして、戦いは激しさを増していた。

 

 

間諜。

 

「クッソ〜なんでオレがこんな事…;」

シュタタタタと戦場からそれた森の中、木の上を飛ぶように駆け抜けるサスケ。

めんどくさそうに呟くその口調は、心底やりたくないといった表情がありありと浮かんでいる。

 

ボキッ。

 

しかし、突然その足場にしていたはずの木の一本が、誰かの投げたクナイによって切り落とされた!

「…うわああッ!?;」

「サスケ…ごめんね…これもカイル様の為…」

 

カスミは心を鬼にします!…と、哀れ少年は、姉のようなそうでないような淡い恋心を抱いたようなそんな相手にひっとらえられ、ぐるぐる巻きにされてしまった…。

 

 

攻撃。

 

「えい!」

「いくぞ!」

「…まったく、…―――真なる風の紋章よ…」

キニスンとエイダの弓や攻撃を、ルックが思いっきり戦争法則を無視した詠唱と威力の魔法攻撃で返り討ちにする…。

 

 

暗躍。

 

「頭を抑えれば、こんな遊びは終わる…」

ペシュメルガとクライブという、何か目立つようで目立たない黒い二人はちゃっかりと、単身敵の陣地(?)に回り込んで、カナタの居る後方までたどり着いていた。もちろん敵は、弾の代わりに豆を突っ込んだ豆鉄砲(カナタ作…)でクライブが黙らせていっている。

 

「リーダー、か――…」

覚悟といおうとしたその瞬間、

 

「炊き出し〜♪炊き出しよ〜♪♪」

ぬばー!と、謎のアメーバー(?)が襲い掛かってきた。

「「わーーー!?」」

「あれ??あれ?;誰かお料理に触った??」

…計らずしも、ナナミは見事敵を撃退したことになった。

 

そして、『最後方で待機しているリーダー』はというと、炊き出し(未確認生物)を警戒して、恐る恐ると言った風情で、ナナミに話しかける。

「あの…ナナミさん、;」

「あっ!だめよ!コーネルくん!今コーネル君はカナタなんだから、お姉ちゃんって呼ばなきゃ!!」

「は、はい…;」

名前を連呼され、―――カナタの予備の服を着せられた―――コーネルは、苦笑を浮かべ、再び手持ち無沙汰に音セットをいじり始める。

…謎の生命体に注意を払うこと以外、彼はとても暇だった。

 

 

 

 

『いいですか、カイルさんは怒ってます。何とかしないと、僕らは皆タンコブを作って、その場に撃沈ですよ。僕にいたっては、タンコブどころじゃすみませんし!
 ――――この戦いは時間稼ぎです!僕がカイルさんを宥めて来るまで!徹底的に防戦してください!』

 

 

 

 

 

上空

 

「この辺でしょうか〜??」

「高ぇよ…オレこんな高く飛んだの初めてなんだけどさぁ;」

バッサ!バッサ!と羽音を立てるフェザーとチャコ。

そして、鳥の背中にライドオンしたカナタは、不服そうに口を尖らせて言う。

「だってしょーがないって。空くらいしか近づけないんだし!」

「だからって何でオレまで…(泣)」

「一人じゃ危ないからね!一応念のために、…ていうか、シドさんも連れてこようと思ってたのに」

「ひぃいいいっ!名前出すなよッ!き、来たらどうすんだよッ!?」

チャコの言葉に、あーはーはーと、カナタの乾いたやる気のない笑い声が響く。

 

―――そう、カナタにとって有利だったのは、空からの足があったことである。

 

そんな訳で、少年は気づかれないようかなりの上空から奇襲(?)をかけようとしていた。

作戦はこうだ。

 

ムクムク達が可愛さで、カイルの気をそらす。

そこをカナタが単身、馬上のカイルを掻っ攫う。

そして、謝り倒す。

 

以上である。

単純かつ巧妙(?)な作戦だが、完全に下の戦いは盾…というか囮というか、捨て駒でしかない。

 

「さあ!そろそろ下降しますよ!レッツゴー下降!」

「はいはい…、ん?オイ、カナタ〜あれ…」

フェザーとチャコがゆっくりと下降の体勢をとり始めた時、下方向から人影(ほぼ点)が一つだけ、ゆっくりと不可思議な動きをした。

…それは、ゆっくりとだが、確実にこちらに近付いてきており……

 

「きゅぃいいいっ!」

 

「「ブライト…」」

まだまだ幼体だと思っていたちび竜が、よたよたと飛んで近付いてきたのだ。

…空からの攻撃に対しても、バッチリ予防策を張られていたらしい…。

「きゅいいい!」

傍まで飛んできたブライトは、更に小さな口を開けて中の鋭い牙を剥き出しにして威嚇してきた。

「…行け!チャコ!こんな時の為の要員です!!」

「えええええッ! やだよオレがすんのかよッ!?こんなちっこいヤツ相手に…」

「キュイイ!」

ちっこい、という言葉に怒りを覚えたのか、白い竜の子供は甲高い鳴き声をあげ、チャコに向かって突撃してきた。

「うわあ!?」

 

避け。

 

「あ!?;」

 

…チャコには翼があり、カナタには翼がない。

つまり、チャコには避けられる攻撃でも、フェザーに乗るカナタには、避けられない。

ついでに馬にも乗れないカナタは、フェザーに乗ってはいても物凄くバランスが悪い。

 

当然、体当たりなど食らったなら、一発で落ちる。

 

「ぎゃああああああああああああああああ!!!!!?;」

「ああっカナタ!?;」

 

 

 

 

 

 

カイルは目の前の兵士の一人を棍で薙ぎ倒す―――兜ごと頭を殴打し、気絶させているだけで頭は潰れていないし、首も折れていない―――と、ようやくハッと我に返った。

 

「あ…れ…?;」

 

今日まで溜まりに溜まっていたストレスが発散されると、後に残るのは不思議さ(疑問)ばかりだ。

すなわち、

 

――――何で怒ってたんだっけ…?

 

それに、何でこんな事を…?;

と、困惑の表情も露に辺りを見回す。

そこはどう見ても戦場で(死人は居ないようだが)、恐らく自分がのしたのであろう負傷兵が次々と医療班(雇われ忍者隊)に運ばれていっている。

そして、ビクトールやフリックと言った解放軍時代の面々が、「風紀がなんだー!ナンパぐらいさせろー!堅物オヤジ共〜!(BYシーナ)」などと叫びながら、日頃の鬱憤晴らしとばかりに戦っているのも見えた。

 

「ど…どうしよう…;」

 

自分のやらかしたあまりの騒動に、カイルはサァッと顔を青ざめさせた。

…ちなみに、顔色を常よりも白くさせた儚い様子は、先程までの戦闘で高揚して頬をピンクに染めていた様子とのギャップで、周りの兵士らを悩殺していたりする。

 

(そうだ、カナタを探せば…;)

 

この騒動を何とか治めようと、カイルが辺りを見回したところ、―――何故か頭上からその人物の声が響き渡ってきた。

 

 

「ぎゃぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜…!!」

 

 

「?;」

その声にカイルが首を傾げた瞬間。

ヒュッとカイルの前方に、人型をした何かが通過した。そして、響く嫌な音。

 

ベチャッ…(ぐちゃ。)

 

…人体が潰れる音がした。

「―――〜〜〜〜〜〜〜!?!?!?!?!?;」

 

カイルの声にならない悲鳴を契機に、戦争は中断される運びとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…死ぬかと思いました〜;」

「……〜〜〜………、……大丈夫?;」←色々複雑なイミをこめた「大丈夫?」

「大丈夫ですーv」

何故生きているのかわからないほどの負傷を負い、全身に包帯を巻かれた少年は、全治一週間と診断されていた…。

…頑丈にも程がある。

「カイルさんーリンゴ剥いて下さい〜vv 後、傷早く直るように、おまじないのちゅーvも欲しいですーv」

「…………(汗)」

 

カイルは困った顔をしながらも、(何か責任を感じているのか)言われるまま包帯越しのキスを贈るのだった。

 

 

終わりました!;

…そして、この5周年企画も残り1・5本…(打ち込みまだですが)

…1/9現在、6周年企画に、2000票も主坊・裏に投票してくださっているのは私の気のせいでしょうか…?

連打してくださっている方、ありがたいです。(笑)

…2位のテド4との間に倍も差があるのですが、土壇場になって誰か一気に千票くらい押して逆転とか起こったら面白いナァ…とか思ってしまう海月です。(爆)

いえ、面白いだけでテド4を優遇しているとかしていないとかという話ではありませんです(笑)

…テド4のコメント面白いので、書く気満々ですし…(ぼそっ)

コメントで面白いのは拍手SSに使わせてもらいたいと思ってます。(爆)←投票のイミねぇっ!;

 

 

 

 

 

おまけ。

 

「で、結果は。戦自体としては、カイル殿の勝利ですな…」

「まあ、カナタも目的を達成した(カイルとの仲直り)という点に関して言やぁ、勝ってるんじゃないか?」

「…引き分けか?;」

 

むしろ、痛み分けに近かった。