あるうららかな、同盟軍本拠地の昼下がり…。
―――――そこでは今、そんな平穏さとは裏腹に、爛れた昼メロ的アダルトな行為が、展開されていた。
池の近くのある茂みの中…
「カナタッ…やめっ…!;」
「誰も来ませんから大丈夫ですっ!」
「そういう問題じゃないからっ…ぁっ…」
散歩コースとして人気のある場所の近くで、この軍のリーダーである少年が、その客人であるトランの英雄を押し倒していた。
真昼間の堂々たる犯行である。
「愛さえあれば問題なしなんです〜!」
「イ・ヤ・だ・か・ら!;」
ググググ…!と押し倒そうとするカナタと、逃れる為に押し返そうとするカイルの力は拮抗していた。
しかし、体勢的に押し倒されているカイルの方がかなり不利な状況だった。
「っ…!;」
徐々に徐々に、地面へと背中が近付いていく。
(何でこんな事に…っ)
それが、その時のカイルの正直な気持ちだった。
真昼間に堂々と押し倒される羽目になっている現状を嘆くというのは、一般的な感想ではないだろうか?
押し倒されるのが心底嫌なら、カイルといえどもこんな関係(いわゆるお付き合い)を解消しているだろう。
…しかし、この場合問題になっているのは、時間と場所なのだ。外で、かつこんな人がいつ来るか分からない場所というのは、言語道断だろう。
(かなり無邪気な様子で)嬉しそうにのしかかってくる少年を、カイルは半ば泣きそうになりながらにらみつける。
…悪気がない分、たちが悪いのだ。(でも放って置くと、本気で押し倒してくる)
「――――いい加減にっ…」
我慢の限界を超えたカイルが右手を振り上げた瞬間、力の拮抗が崩れた。
「あっ!」
「!」
勢いよくカイルの体が、地面に倒された。
そして、運が悪かったことは、その倒れた場所だった。
ゴンッ!
「カイルさん!!;」
カイルが倒れた場所には、こぶし大の石があったのだ。
当然、カイルは頭をぶつける事となった。
「カイルさん!しっかりしてくださいっ!!;ああっ!気絶しちゃってます!?」
打ち所が悪かったのか、カナタが必死で呼びかけるのにも答えず、カイルは目を閉じたままピクリとも動かなくなっていた。
「医務室ーーー!!;」
――――カイルにとって、唯一運が良かった事は、少年が怪我で気を失った相手にも、行為を続行するような鬼畜ではなかったと言う点だけだろう。
ここから事件は始まった…。
「う…ん?」
「気がついたか、」
「…ビクトール?」
目が覚めたら、そこはあまり見慣れない天井と、そして消毒液の匂いと、ビクトールの顔があった。
一体何があったのかと思い出そうとすると、酷く頭がズキズキする。…どうやら、頭に瘤が出来ているようだ。
「あまり動かないで、瘤が出来ているだけのようですが、しばらくは安静にしていてくださいね?」
「はい、」
ありがとうございます、とカイルは声のした方向を見て、この城の医者であるホウアンにお礼を言う。
――――この城…?
(誰の城…だったかな…?)
「?」
ぼんやりとカイルは頭を振る。
何か記憶に霞がかかっているような気分だ。
起きたばかりだからかも、と自分を納得させていると、ビクトールとホウアンの会話が耳に入ってきた。
「大丈夫なら、見舞い客入れてもいいか?」
「静かにするなら、もう入ってもらっても結構ですよ」
「了解、――――オーイ、入っていいそうだぞー」
医務室のドアを開けると、シーナやフリックといった顔馴染みの面子に加え、勢いよく最近知り合った少女が飛び込んできた。
「カイルさんーーー!大丈夫〜〜っ!? お姉ちゃん心配したのよー!!」
「ナナミちゃん…;」
「おいおい、ナナミ、カイルは頭打ってるんだから、あんまり激しく揺さぶるなよ?;」
「だって可愛い弟の大事なお嫁さんだから、心配なのよ!」
――――お嫁さん…?;
「嫁って…そう言えば、そのカナタはどうしたんだ?」
――――カナタ?
「シュウさんに連れてかれちゃったんだけど、きっとすぐ戻ってくると思うの!」
カイルにはよくわからない単語が飛び交う中、その疑問を口にしようとした瞬間に、勢いよくドアが開かれた。ナナミよりも激しく、まさに破れろといったばかりの勢いだ。
「カイルさーーーーーんっっっ!!!!!」
物凄い形相で飛び込んできたのは…――――見知らぬ少年だった。
「えっと…」
「無事ですか!?痛くないですか!?ごめんなさいです!!」
「痛くはないけど…;」
ベッドの上に乗りあがり、必死で喋る少年に、カイルはとても申し訳なさそうに口を開く。
それまで周囲は、やれやれ…と苦笑しながらも、肩をすくめるばかりの様子だったのだが…
「あの…ごめんね? 君、…誰だった…?」
ピキーンと辺りは凍りついた。(特にカナタなどは石化してしまった。)
しかし、その硬直させた当人はというと、困った様に首を傾げるばかりで、自分がどれだけ重大な発言をしたのか、気付かずにいる。
「……………っ医者呼べーーー!!;」
「え?;」
「落ち着け!;医者はそこに居るだろうがッ!!ホウアン!再診だー!!;」
「カナタ〜ッ!しっかりするのよー! お姉ちゃんがついてるわー!!」
「カナタ…くん、って言うの?憶えてなくてごめんね…どこで」
「カイルーーー!トドメを刺してやるなーーーッ!!;」
「貴方の名前と年齢は分かりますね?」
「はい、カイル=マクドール…一応19才です、」
「ここにいる人の名前は分かりますね?」
「はい…」
「貴方がここに滞在している理由は?」
「………? ―――誰かに、乞われて…?ここにいたんだと…」
困った顔でカイルは眉を寄せた。
「ホウアン…どうなんだ?」
ビクトールが恐る恐ると、その場の全員の言葉を肩代わりする。
「―――部分的な記憶喪失としか…それも、カナタさんに関してだけのようです。」
ホウアンは、いつも柔和な顔を今は困惑げに歪めて、そう診断を告げる。
「記憶喪失…」
「カナタだけを、忘れたってことか?」
「はい、…よほど頭を打つ前にその事を考えていたのか、忘れたいと思っていないとこんな事にはならないんですが…」
(((忘れたかったんだな…)))
何となく納得してしまう。
人間誰しも、よく考えたら忘れたくないようなことでも、忘れたいと強く願う瞬間があるものだ。
「治るのか?」
「今のところは何とも言えません…外傷は特に酷いものではありませんので、様子を見ることしか…」
つまり、手の打ち様がない、と。
一同から我知らずと、ため息が漏れる。
「カナタしっかりするのよっ!」
そんな中、いつもと変わらぬ様子で、カナタを呼び続ける少女の姿があった。
「傷は浅いわ!そんな事で愛はめげちゃダメなのよっ!カナタの思いで記憶を取り戻させるのよー!」
「―――はっ!」
ナナミの言葉で、やっと生気を取り戻したのか、カナタの石化が解けた。
一同は、我に返ったカナタが泣き叫ぶ(というか駄々をこねる)かと思ったのだが――――彼は何を思ったのか、策謀の匂いを漂わせる何ともいえない表情をした。
…思わず後ずさってしまう。
「カイルさん…」
「?」
カナタは一瞬で記憶をなくしたカイルの傍まで寄ると、手を握りじっと瞳を見つめて(しかも上目遣い)こう叫んだ。
「カイルさんっ…!貴方は僕の恋人で誰もがうらやむカップルだったんです…!それはもうっ!結婚も直前な感じの!!」
「えっ!;」
…大体はあっているのだが、何かが違う。
そう、少年の言い方では、カイルも自発的にイチャイチャしていたような気がするのだ。(…おそらく、確信犯で言っているのだろうが。)
一瞬、解放軍メンバーは顔を見合わせ、止めるか?と無言で会話を行うが、どう訂正するかがわからない。…大まかには合っているのだ。
うーむ;と戸惑う一同をよそに、少年は一気に洗脳を進め続ける。
「ほら!その証拠に…!左手の薬指に婚約指輪です!!」
「…ほ、んとだ…;」
カナタによって手袋を剥ぎ取られたその先には、記憶にない指輪の姿が確かにあった。―――しかし、誰かにもらったという記憶はある。その誰かはわからないけれど。
「僕とカイルさんは結婚を前提にしたお付き合いの真っ最中だったんです!!ちなみに僕が夫でカイルさんが妻です!!」
「………」
カイルは考えた。
確かに自分は記憶を失っているのだろう。
そう多くはない物の、とても大きな記憶を。
その証拠に、何故だかスッキリ…いや、とても軽くなった思いがあるように感じられる。
それもこれも、(この少年いわく)愛という記憶を失っているならば、ありうることだ。
カイルは戸惑いに揺れていた瞳をカナタに向けると、今度はとても申し訳なさそうに謝った。
「ごめんね…そんな大事な事、忘れてて…」
「いいんですよ!!二人の想い出はこれからまた作っていけば…!」
その時、カナタはとても胡散臭い笑みを浮かべた。と、一同は思った。
「カイルさんはこんな時、ごめんなさいのちゅうvをしてくれたんですよ♪」
「人前で!?;(///)」
(騙されているっ騙されてるぞ…!;)
ビクトールもフリックも、シーナもそう思ったのだが、誰も口には出さなかった…。
だってカナタが怖いから。
…せめて、フリックは、カイルの名誉のために、ナナミの目を手で背後から覆ってやった。
「ホウアン先生ーもうカイルさん医務室に居なくても大丈夫ですか??」
「安静にしているなら、もうベッドに寝ていなくても結構ですよ」
医者のお墨付きをもらったカナタは、ご機嫌な様子でにこーっと笑ってカイルに手を伸ばした。
「カイルさん!行きましょう!! ちなみに、歩くときはいつも腕を組んで歩いてたんですよ!」
「え…;」
本当に?と口には出さずに、カイルは困惑しながらもカナタの腕に自分から恐る恐ると腕を絡めてみる。…明らかに、顔に「全然憶えのない感覚なんだけど…;」と出ていた。
しかし周囲の者達は、何も言えない。
むしろ、こんな状況では、言えまい。
そんな事はしていなかったと言えば、カイルは恥ずかしさのあまり紋章を暴走させかねない。病み上がりなのもあるが、それに巻き込まれると思うと、自然と口をつぐんでしまう。所詮わが身が可愛いのだ。
しかし、それにしてもカイルが自発的にイチャップル的な行動をとるというのは、破壊力があったりする…。
「さあっカイルさんv僕との記憶を取り戻すために、思い出の場所を回りましょう♪♪」
「…このままで…?;」
「もちろんです☆カイルさん、もっとピタ〜ってくっついて来てくれてましたよ♪」
「〜〜〜;」
困ったような表情で、カイルは言われるままカナタに体を預けている。…かなり慣れない様子だ。
「さあー♪レッツゴーです〜♪」
カナタのその声を最後に、パタムとドアが閉まる。
途端、誰ともなく、ふ〜;とため息が漏れた。
「は〜;やれやれだな…;あの分だと、カイルの奴記憶が戻るやら戻らないのやら…;」
「むしろ戻らないほうが幸せかもな…;」
自らバカップル的な行為を行っていたと知れば、カイルのダメージは計り知れないものとなるだろう。
「〜〜〜〜;」
「? どうした、ナナミ?」
そういえば、何故か途中から静かになっていた少女に、フリックは違和感を感じて問いかける。
―――よく見ると、ナナミは妙に神妙な顔つきになっていた。
「カナタ…怒ってたわ〜;」
「「「は?」」」
目が点になるとはこういう事だろう。
「………機嫌、良さそうに見えたが?;」
「お姉ちゃんとしての勘よ!; あれは絶対怒ってるのよっ! カナタ怒ると、たま〜にっ顔が笑ってる時があるもの!」
誰に?
―――と言えば、やはり該当者は、記憶をなくした(しかも自分ひとりだけの)カイルだろう。
カイル本人に対してではなくとも、その記憶をなくしたという事に対して、理不尽な怒りをカナタは感じたのだろう。
…どっちにしろ腹いせのようにイチャップルを演じさせられているカイルは、災難としか言いようがない。
一同は目を瞑って、カイルの今後の不幸について冥福を祈った。
レストランでの、あ〜んvと食べさせ合いに始まり、
湖でのボート遊び、
二人協力もぐら叩きや、
追いかけっこに、
厨房を借りた新婚調理や、
…今この現在の、このベッド上でのひざまくら…
「………」
カイルは疲れたため息を吐いた。
どれもこれも、やっていたような感覚は残っているのだが、自分から喜んでやっていたというような気がしないのだ。
―――その証拠に、妙に精神的な疲れと、ストレスが溜まっている。
…しかし、それでも少年に対して「本当はやってなかったんじゃ…?;」とは聞けなかった…。
何しろ、自分は記憶を失っていて、相手は記憶が残っているのだ。罪悪感がある。
「………はぁ…;」
「…カイルさん?」
どうしたんですか〜?と膝の上に頭を乗せるカナタに両手で顔を挟まれて、カイルはひゃっ///と慌てる。
そのまま顔と顔が触れ合うくらいに近づけさせられたからだ。
「カイルさんと僕はこんな感じでいつもイチャイチャを、し・て・た・ん・で・す・よ〜っ!」
「っ…ほ、ん、と、に…っ?;」
反射的に抵抗をしてしまい、唇の触れる寸前で状態が拮抗する。
…根負けしてキスが頭突きになってしまうまで、その戦いは続けられた。
「………;」
カナタから少し離れたベッドの端で、カイルは額と唇を押さえ、肩で息をしていた。
(別に嫌なわけじゃないんだけど…;)
妙に慣れないのだ。
本格的に拒絶できないのを考えると、自分とこの少年の間にあった関係は、嘘ではないのだと思うけれども―――――――それでも、記憶にない相手とイチャイチャ(?)するのは、恥ずかしい。
「………」
「………カイルさん、やっぱり思い出せません?」
「…うん、ごめんね?」
子供じみた動作でにじり寄ってくるカナタに、(先ほどまでの戦いは忘れて)微笑ましいような気分で、微笑を返すと少年は難しい顔をした。
「ダメですか〜? ――――じゃあ、ショック療養ですね!」
「?;」
ショック療養?
どんなショックだろう?と、カイルは自分のみに迫る危険にも気付かず、ただカナタを見ていた。
「カイルさんカイルさん♪ 両手の内側と内側合わせて、前に出してみて下さいー♪」
「? こう…?」
言われるまま、素直に両手を差し出す。
ぎゅっぎゅ。
…そこに、布製のロープが素早く巻きつけられた。
「………カナタ?; 何、コレは…」
「僕が縛るものを常に常備してるなんて事!普段のカイルさんにはお見通しだったんですよ☆」
「………(汗)」
全く理由になっていない言葉を返され、なんとコメントしていいのかわからない。
ただ困った顔でいたカイルだったが、間近にある少年の顔を見てふと気がついた。
――――目が笑っていない。
「――カナタ!?」
「下手な芝居の台詞じゃありませんけど…―――こうなったら身体で思い出してもらいます!!」
ピシャーン!とカナタの背後に雷が鳴り響いたようなイメージが見えた…。
縛られたカイルは、暴走したカナタに、とりゃ―と押し倒されるばかりだ。
…異様に記憶に引っかかる懐かしさだ。
「ちょっ…待って!; やめ…」
「今日の僕は一味違うんです!! 投票企画でも鬼畜ってリクも多かったですし!!」(※6周年企画参照)
どったん!ばったん!!
…これだけの騒音がしても、誰も部屋の中に駆け込んでこないというのは、普段の行いとリーダーの特権の一つだろう…。
手を縛られ抵抗の出来なくなった間に、そろそろ表では置いておけないような格好にされかけたカイルは、身を捻る事で更に抵抗を続けながら、頭の中に過ぎる記憶とも戦っていた。
『カナタッ…やめっ…!;』
『誰も来ませんから大丈夫ですっ!』
『そういう問題じゃないからっ…ぁっ…』
―――――そう、確か…確か…!
「もう表だろうが裏だろうがっ僕は気にしませんーーー!! 僕の事忘れちゃうカイルさんなんて…カイルさんなんて…ッくわーーっ!それでも大好きですーーー!!(号泣) だから押し倒しですーーー!」
「いっ…いい加減に…」
押し倒してくるカナタを…
退けないと…!
「『裁き』!!」
ドカーーーーン!!(※イメージ音)
…見事に、ソウルイーターの攻撃が、カナタに直撃した。
「う”わ”ーーーん”!!(怒)酷いですーーーー!!カイルさんが僕の事忘れたから悪いのにーーー!!僕悪くないですーーーー!!(怒号泣)」
「っ…だから、こんな外ではやめてって…――――忘れ??」
ダメージを受け、瀕死になったカナタに更に棍を振るおうとしたカイルは、カナタの言葉に疑問を抱き、動きを止めた。
よく見れば、外に居たはずなのにカナタの部屋にいて、昼間だったのが夜になっている。
一体何がどうなっているのだろうか?とカイルは首をかしげた。
「ハッ!―――カイルさん…!愛の奇蹟で記憶が戻ったんですね!? 実はかくかくしかじかで、カイルさん僕の事忘れてたんですよー!?」
「え…」
「だからお詫びに色々させて下さい!! 部屋の中ですしっいいですよねっ!!」
バッターン!!と再び押し倒したカナタに、カイルは何となく抵抗を弱めてしまう。
忘れていたのを申し訳ないという、またそんな甘い気持ち故だったが…原因は確実にカナタにあり、カイルには何の責任もないはずなのだ。…相変わらず、カイルは押しに弱かった。
しかし…カイルはふと、自分の手の状況に気がついた。
「――――何で…縛られてるの?」
「…てへv」
両手で棍を掴んでいる手首は、見事に一つに纏め上げられていた…。
明らかにナニかがあった痕跡だ。
夜に入ったばかりのリーダーの部屋で、物凄い騒音とカナタの絶叫が響き渡るのを聞いて、同盟軍一同は、カイルの記憶が戻ったことを確信したそうだ。
…まあ、途中でその声が静かになって、平穏そのものの様子になったのは言わずもがなであるが…。
だらだら続きました…
シャキっと終わらせたいものですね;
短くなってしまう人ですが、無意味にダラダラしてもつまらない物はつまらないー!
…と、自分でツッコミを入れる今日この頃。(笑)