ザザーン…ザーン…
波の音が寄せては返す音が、耳に静かに届いてくる。
湖でも波の音は聞こえてこなくもないけれど、この潮の香りは海にしかない匂いだった。
そう…紛れもなく、海に来ていた…。
ズリズリズリ…
そう、この、頬に当たる砂の感触や、膝の裏をくすぐる砂の感触や、靴の中に入り込みザラザラしている砂の感触も、全て海の証拠だ。
ズリズリズリ…
…………………引きずられてる?
「―――何事ですかー!?!?;」
「おきた。」
少年…カナタがカッ!と目を見開き叫ぶと、自分をズリズリと引きずっている相手が言葉を返してくる。
サラサラの淡い茶の髪、額に巻いた赤いバンダナ、印象的な海の色の瞳をした少年がそこにいた。無表情ながらも整った容姿に反して、端的に放たれた言葉はとても幼い口調だ。
そのミスマッチな魅力こそが、彼を格好の変質者の餌食にしているのだが、今はその変質者も走って逃げ出すか、後ずさるかもしれない様子だった。…そう、カナタすら少し引いた。
―――――彼は、背中にズッシリと巨大なカニを背負っていたのだ。
「ホントに何事ですかーーーーーッッ!?;」
「?」
そんな巨大なカニを背負っているために、カナタは背負われずに手をつかまれて引きずられていたらしい。
「というか!ここはどこですか!?確か僕はカイルさんとTHE☆常夏の南国の海で新婚旅行♪を企ててビッキーにテレポートしてもらったんですけど!?」
「…無人島。」
首を傾げてそう言った相手は、未だにカナタを引きずってい歩いている。…動じていないカナタもカナタだが、人を運ぶのに正しい方法とは思われない。
「え〜っと;え〜っと??;確か僕はー飛ばされて〜?それで、沈んで…溺れたような記憶が?;」
よく見ると、先ほどからしていた潮の匂いは、自分の足にくっついているワカメからしていた。
溺れて流れ着いたところを、この引きずり主が拾ってくれたのだろう。
「――――で、カイルさんは一体…」
「オイ、カイカ…オマエ、何また引きずって…;」
その突然現れた、新しい声のした方を見てみれば…
――――――――――――カイルがひっし!と老成した雰囲気のある青い服の少年に抱きついているところが見えた。
「カイルさーーーーーーーーーんっっっっ!!!!!!?????」
『幻水4乱入どたばた劇場〜特別編〜』
カナタを拾ったのはカイカ。
カイルを見つけたのはテッド。
…それはわかっていた。
深い事に突っ込んだら負けだが、幻水4時代には何度も来ているのだ。
しかし。
(いくら死んだ親友と会えたからといって)カイルがテッドに抱きついているのは、我慢できない!…心の狭い少年はそう心の底から思っていた。
「カイルさーーーーん!!離れて下さいーーーーーーッッ!!(怒)」
グィイイイッ!とカナタがカイルを引っ張れば、カイルが離されまいと、テッドにしがみ付く。それを更に引っ張れば、テッドに被害が全部行くというもので…
「痛たたたたたたたたー!!;(怒)」
いい加減離せ!と顔に思いっきり出しているものの、テッドは何故かこの抱きついている相手に、強い態度に出ることが出来ない。…普段ならば、一次接触を行っただけでも俺に構うなと言うテッドがだ。
――――おかげで、周囲の視線が非常に厳しいものになっていた。
「いつもなら、カイカにも「オレに構うな!」って怒鳴ってるのに…」
「差別です」
「エコ贔屓だな、」
「人前でなきゃ、(カイカと)もっと凄いことまでしてるくせに…」
…テッドに対して。
ぼそぼそと船上で囁かれる声に、テッドはピキリと額に青筋を浮かべた。(特に最後の言葉に。)
別に、テッド自身も好きでこんな事をしているわけではない。(落ち着かないし)
しかし、無理に引き剥がせないのもまた事実で………そんな気持ちが周囲に伝わるがゆえに、テッドのみに非難の視線が注がれているのである。
「…」
ぴと。
「…カイカ?;」
こんなときにわざわざカイカが、空いている背中にくっついてきた。
本人はよくわかっていないものの、周りに促されるままくっついてきたらしい。
…前にも後ろにも動けなくなったテッドだ。
「両手に花どころかサンドイッチ状況ですかッ!?憎いですーーーーー!!(憤怒)」
ギャーーー!!(怒)と叫び、カナタがこれでもか!とばかりにテッドにくっついているカイルを引っ張った。
すると…
ビリィッ!!
「「「「……………」」」」
勢い余り、誰もが妥協を許さなかった結果…テッドの一張羅が先に悲鳴を上げた。
つまり、袖が破れた。
「あ…;」
「あ〜;」
「人前で!?」
「意外と大胆だな…」
と、ぼそぼそ周囲で呟かれるコメントに、ついにテッドがブチリと切れる。
「〜〜〜っの…!(怒)」
全員離れろーーー!!!!!と、怒声が船中に響き渡った。
「でりゃああああトリプルリーダー攻撃ーーーッ!!!!」
ガンゴスゴスズシャッ!!
…3人の攻撃(特に頭に輪っかをつけた少年)が見事に決まり、周りのメンバーから拍手が沸いた。
「どりゃあああああ!!!!!釣りは出来ないので地引き網釣りぃいいいい!!!!!」
無駄に鯨とか捕れそうになって慌ててキャッチ&リリース。
「まんじゅう作りアルバイトぉおおおお!!!!!」
物凄い勢いで小麦粉を撒き散らし、生地をこねまくる少年。
カイカも合格を出した出来映えのまんじゅうだったらしい。
「リィタポォオォン!!!!!」
火の牌が本当に発火して危うく火事になる所だった…。
数々の騒動を引き起こしている少年は、なんだかんだと船内で「おお〜何かすごーい」と思われていた。
しかし騒ぎの主であるカナタ本人は、とてもではないがそんな評価が耳に入る状態ではなかった…。
何故なら、うっかりカイルのおねだり攻撃(?)にやられて滞在する事に決めたものの…カイルはテッドにつきっきりで、しかも常に瞳が涙で潤んでいる為に、周りの海の漢共が悩殺されていくわで、全くもって面白くないないのだ。
「そろそろ我慢の限界ですーーーッッ!!!!(怒)」
まだ半日も経っていないのに、カナタの嫉妬パワーはMAXだった。
「あ〜…;」
みとっ、とカイルにくっつかれたテッドは、困ったように頭を掻いていた。
何故だか嫌な訳ではないが(むしろ懐かしいような感情がある)、涙目で見つめられているのは、落ち着かない。
しかもカイカはカイカで、妬く訳でもなくいつも通り遊び回り、今はお茶の準備などをしている…。
一体どういう状況なんだ!
誰か説明して欲しいと心から思う。
ちなみに(傍目から見ると、ギャルゲーの主人公のような状態の為)周りの視線が非常に痛いテッドは、今は3人いてもまあ狭くはなく人払いも出来ている(でも外にはいる)カイカの自室に来ていたりする。
カイカは3人分のお茶を用意してもぐもぐとまんじゅうを頬張っているし、テッドはテッドで固まっているし、カイルはまだ平常の様子には戻らずに涙目で縋り付いている…。
どうにもならないと思われたこの状況だったが、状況を打開…というか破壊というか―――悪化させる声が響き渡った。
「片手にカイルさん!片手にカイカさん! 両手に花とは言語道断…ッ!
お天道様が許しても!この愛と破壊の使者!僕が許しませんーー!!!!!(怒)」
(バッターン!と扉が激しく壁にぶつかった音と、)声のした方向を見ると、入口の前でビシリ!とポーズを決めて少年が立っていた…。
「カナタ…;」
「ほぎゃーーーッッ!!(怒)カイルさん!離れて下さいッッ!!!!」
今回はすぐにテッドの腕から体温と重みが消えた。
そして、その途端に殺気立った視線がカナタと呼ばれた少年からぶつけられる。
「ともかく!いざ!尋常に勝負です!!!!(怒)僕が勝ったら、即刻元の場所に戻らせてもらい!尚且つざんげ室で金だらいの嵐ですよ!!」
「え…」
ショックを受けたような顔でカイルがカナタを見る。
それには「うぐ!;」と怯みながらも、カナタは耐え切ってテッドを指差した。
…当然指差されたテッドは、嫌そうな顔をしている。まあ一方的に理不尽な喧嘩を吹っ掛けられては、面白くないだろう。
しかも金だらい。…妙にカイカが目を輝かせているのが気になる…。(※落とした事がないので、落としてみたいようだ。)
「とにかく!僕と1対1の勝負ですよ!!」
「…何で俺が…」
そんな物受けなきゃならないんだと、テッドが断りかけたその瞬間、
「え?勝負??」
「決闘?」
「愛をかけての戦いっ!?」
「つまりはカイカを賭けての勝負!?むしろ四角関係ッッ!?」
…開け放たれたドアの向こうでは、無責任なギャラリー達が群れていた…。
「甲板に(連れて)行くぞーーー!!」
「「「「「おーーー!!」」」」」
…いっそ見事としか言い様のないまでの結束力で、連行されてしまった。
潮風が吹き荒れ、停泊中とはいえ不安定に波に揺られ続けるまんじゅう船…その甲板の上で、今まさに決闘という名の祭が始まろうとしていた!
「勝てよー!テッドーー!!」
「いや負けろーー!」
「浮気男ーー!!」
「羨ましいぞゴラァーーーッ!!」
本気なのかそうでないのか…判断のつけがたい罵声を浴びせてくる船員達に、テッドの血管は今にもぶち切れそうだ。
『恋人を賭けての勝負』という、誤解を生むしかない名目の決闘に、周囲はもう…興奮状態で野次を飛ばしている。
(コイツらッそんなに暇か…!>怒)
ちなみにカイルとカイカはと言うと、どっちがどう賭けられているのか解らなかった為に、両方賞品台に乗せられてしまっている。
冷静に考えてみれば、輪っかの少年がバンダナの少年を狙…想っているのは解り切った事だろうに、何故カイカまで………
テッドはそう思ったが、実際にはややこしい事にそう一概には言えないのが現状だった。
―――カイル本人がテッドにしがみついて離れなかった上に、テッドもそれを無理に引き剥がさなかったの為に、妙な誤解を生んでいたりした。
つまり、図にするとこういった感じだ。
カイカ→テッド←カイル←カナタ
………テッドの矢印がどの方向を向くのかが、この決闘で試されるのだろう。間違いなく。
…カイカ主義のメンバーらの視線がとても痛い。(それでもカイルには非難の視線を浴びせていない辺り、純然たる差別を感じる。)
「始めますよーッ!!!!?(怒)」
既に怒り状態で待機していた少年は、殺気を漲らせて両腕にトンファーを構え…―――
「ちょっと待てェエッッ!!;」
「何ですかっ!!男に待ったはなしですよッ!?(怒)」
「おかしいだろッ!(怒)弓とソレでどうやって一騎打ちする気だ!?」
キノコ戦争の法則でいけば、思いっきりテッドの負けだ。
「そんなもん僕の知ったこっちゃないですッッ!!」
「吸うぞッ!?(怒)」
ソウルイーターで。
ぎゃあぎゃあと争っている2人に、賞品台の上の人物は困っていた。
カイル的にはまだここ(テッドの所)に居たかったのだが、ここまで騒動が広がってしまっては、申し訳ない気持ちになる。
「…………(どうしよう;)」
「…」
カイルが困った顔でカナタを止めるか止めないかを悩んでいると、カイカが慰めるように(無表情ながら)服の端を引っ張った。
カイカのそんな様子に、カイルも小さな笑みを浮かべた。
お花が舞うようなほのぼのした光景だ。
「カイカ、カイカ! せっかく決闘なんだから、海伝統の勝負にしてみない?」
「ラズリルではよく行われてましたね、」
「いや、さすがによくって程ではなくないか…?;」
「でも久々に見たいよなぁ?」
その光景に刺激されたのか、いつもの保護者4人組がひょこっと顔を出して、カイルにはよくわからない提案をする。
「伝統?」
「…(こっくり)」
カイルは不思議に思いながらも、カイカにはわかったのか間を置かずに了承の頷きをみせていた。
「二人ともー!決闘の方法決めるから!決闘ちょっと待って〜!!」
『ボーディング』
敵船に飛び移って戦う斬り込み戦
『ウォーク・ザ・プランク』
とっても危険な船板歩き
『キール・ホーリング』
刑罰にも使われた船底くぐり
(BY落乱)
「さあ!どれにする!?」
どれにするも何もあるかッ!!(怒)
…と、テッドが叫び声を上げなかったのは、船員らが誰ひとりとして顔色を変えなかった為だ。
この決闘方法は、どうやら彼らの中では常識らしい。
「どんと来いですよー!」
そして、カナタはノリノリだ。殺る気満々といった所だろう…。
「それじゃあ船底くぐりにしましょうか?」
「決定だな、」
「誰かロープー!」
「先に船の底を潜り抜けた方が勝ちってことだからね?」
…(拒否権もなしに)よりにもよって、一番酷そうなものが選ばれた。
確実に何か声(「やってやります!」やら「出来るかッッ!!(怒)」やら)が上がると思われたのだが、何故か決闘者の2名からは何の声も上がらなかった。
不思議に思って全員が2人を見てみると…
「………」
「………」
微妙な表情で沈黙していた。「あ;」と何事か気付いたのはカイルだけで…
「カナタ、泳げな…;」
「泳げなくないです!!;カナヅチじゃないです!カイルさんの為なら海でもマグマの中でも泳いで見せますーーー!!(泣)」
涙目で絶叫するカナタに、周りのメンバーらも、「あ。泳げないんだ」と納得した。
「テッド、アンタは?」
「オレは…泳いだこと自体がない;」
故に、泳ぎ方が分からない上に、自分が泳げるのかも分からない。
「「「「へ〜」」」」
「…何だよ;」
生暖かな視線に、逆にテッドは身の危険を感じる。
顔を引きつらせてテッドが後ずさったとき、不意にカイルの悲鳴が上がった。
「カナタ!!;」
「愛の為に僕は生きますーーーーー!!!!」
どっぽ〜ん!!
「あ…勝負開始の合図もしてないのに;」
「いや、泳げないのに飛び込んでどうする気なんだ!?;」
既に海中に沈んで見えなくなった少年の姿を見て、テッドは頭が痛くなった。
――――この時、彼は無防備にも船体から身を乗り出していた…。
「「「「……………」」」」
背後に忍び寄る4つの影。その陰は音もなくテッドの背中に回り込み、手を伸ばすと…
「「「「えい」」「「それ」」」」
「なッ!?」
ドン!
…続いて、テッドの体も水飛沫を上げて、海の中へと沈められた。(かなりの高さがある為、とても痛そうな音が響いた。)
…それでも、テッドは水面でもがくように浮いていた。しばらくは。
「海上騎士団の時の通過儀礼だったよな〜」
「…(こっくり)」
「懐かしいよね〜?」
「着衣のまま泳げるようになるというのは、必須でしたから」
「最終的には鎧着用だったしな…」
「テッド!!;」
うんうん。とカイカと頷きあう船員らの中、カイルだけが再び悲鳴を上げた。
そして、同時にテッドの姿も海へと消えた。
…水面に何も浮いてこなくなって、数分。カイカが命綱を持って、海へと飛び込んだ。
「殺す気か!?(怒)」
「カイルさんーーーー!!僕は駄目な男ですーーー!!(泣)」
ずぶ濡れで怒り狂うテッド(その前で正座で反省中のカイカ)と、号泣するカナタ(カイルは抱きつれている)…。
その2人に、「じゃあ勝負は先に泳げるようになった方が勝ちってことで」と提案した所、即座に却下されたという。
後、まだ2人の来訪者は、しばらく滞在していたらしい。
ラストです!(笑)
何だか取り留めのない物になってしまいましたが…;
ここまでお付き合いくださって、ありがとうございました!!(喜)
…次は6周年はもとより、7周年記念が迫ってきております(笑)
後、下に没になったシーンを載せてます。(笑)
貧乏性っ!
<おまけ。>
〜彼らが滞在する事になった訳〜
カイルには最低限ではあるが、貴族としてのプライドというものが存在している。
それは、自己の魂を曲げるくらいなら(…つまり、敵に媚びてまで生き延びるくらいならば)自ら命を絶つというような類いのものだ。
些少のものではあるが、そんな覚悟が彼の凛とした美しさの基盤を作り出しているとも言える。(同じ状況に置かれた場合、カナタならば泥に塗れても生き延びようとする覚悟が彼のサバイバルな性格を作り出しているように…)
…何故こんな話をしているかと言えば、今現在のカイルの状況によるものだ。
今、カイルは過去に飛ばされ、喪った親友の生きている姿を再び見る事が出来たのだ。
つかの間の夢とは言え、まだ見ていたい、傍にいたい。そうカイルが思っても仕方がない話だろう。
もし彼が蘇るというなら、自分の何を犠牲にしてもそれを望むだろう、それ程の親友であったのだから。
……………そんなカイルの心情がわかる、カナタは、わかる事はわかるが納得出来るかどうか否かは別の話で、嫉妬に燃えたぎってすぐにでも帰りたい様子を見せている…。
もういっそ視線で人が殺せるならば、テッド所か周囲の人間まで巻き添えに出来そうだ。
しかし…カイルはそれでもテッドの元に居たかったのだ。…自分の何を犠牲にしても。
「カナタ…」
手は身体の前、
目は少し潤ませて、
視線は心持ち上目使い…
「…お願いっ」
「ギャー!!(鼻血)わかりましたー!!そんなにっそこまで可愛くお願いされたらーッvv(泣)」
………さすがに語尾にハートマークまでは付ける事は出来なかったものの、カイルは自ら哀願するという行為に出た自分に何だか涙が零れて来ていた…。
「まあそんな訳でしばらく滞在する事になったんですから!宿星表にはのっけてもらおうじゃないですか!」
「きゃー!;スノウの名前投げちゃダメー!!;」
「カマボコ板で名前つけちゃえですー!!」
半ばヤケクソで少年はメンバー表の前で暴れていた。
「…………;」←自己嫌悪中
「…?」
「おい、大丈夫か?;」
いつもは止める筈のカイルも、今はそんな余裕はなかった為に、カナタの暴挙は暫く続いたという…。