メルヘン童話お伽話マゼコゼ幻水劇73

 

『人魚姫 〜前編〜』(人魚1:カイカ、人魚2:カイル、魔女?:カナタ、王…旅人:テッド)

※テド4メイン。

 

 

深い深い海の底、蒼く輝く水の中、波が織り成す白い綾の中に、人魚達が暮らすお城がありました。

人魚達は誰もとても美しく、その中でも一番無防備な…それでも、美しい人魚にカイカという名の人魚がいました。

「…」

別に魔女(?)に声を奪われた訳ではありませんでしたが、この人魚はあまり喋る事はありません。…ちなみに、人魚の中には魔女(?)に存在自体を奪われたものも居ます。代わりに魔女(?)は心を奪われた☆とか言っているらしいですが…出番はまだですので、それはさておきましょう。

このカイカは、特に歌が素晴らしく上手で、うっかり人間の船を難破させてしまうほどでした。

「…(♪)」

そして、この人魚は無表情ですが、感情の方は見た目よりも幼く、好奇心も旺盛で、海上のことにとても興味を持っていました。

特に、人間のものだと思われる宝箱の中に詰まっていた食べ物(丸くて白くて、中には甘いものがギッシリと詰まっていました)が流れ着いてからというもの、地上に興味深々です。

…何しろ、海の水に浸かっていてさえも、あれほどおいしい食べ物だったのですから。

「…」

白くて丸いもの、

それを思って、今日も人魚は地上へ思いを馳せます。

 

 

人魚の掟で、ある一定の年齢になるまでは、人魚達は海上に上がってはいけない約束になっていました。

カイカは…年齢的には問題はないのですが、少し不安が残る内面ですので、先送りになっているのです。

しかし、カイカよりも年下の人魚が海の上に上がりましたし、そろそろいいのではないだろうかと、カイカも海上へ出ても良いことになりました。

 

しかし、カイカが海上へ上がる日…何の陰謀があったのか、嵐の日でした。

 

海の中は穏やかでしたが、一旦海の上に出ますと、風邪が吹きすさび、雨は降りしきり、波も激しく荒れて恐ろしい様子でした。

確かにこの天候では、人間は居ないでしょうしカイカも見つからないので安心ですね。

「…」

他の人魚から聞いていた綺麗な空も、大きな船も、…そしてあの白くて丸いものも何もありません。

ただ、真っ黒な空が見えるばかりです。

無表情ながらも残念そうな様子で、波間を漂うと、その目と同じ綺麗な青の鱗のついたしっぽを一揺れさせました。

もう海の底へ戻ろうと思ったその時です、人間の乗る船の残骸が波間を漂っているではありませんか。

海のまん中で嵐に出会ったのでしょう、波で海に打ち付けられ、バラバラになった姿はもう船とは分からないような有様でした。

そんな船の残骸の板切れに、1人の旅人らしい人間がしっかりとつかまっているではありませんか!

「、」

大変とカイカは生存者の救助に向かいます。

気を失っている相手を抱え、板切れごと近くの陸地へと運びます。

人魚ですが中々パワフルですね。

 

 

「うっ…」

「…」

相手はどうやら気を失っているようでしたが、そんなに水も飲んでいないようですし、脈もしっかりしています。

後は、水から引き上げて体温が低くなりすぎなければ、大丈夫でしょう。人命救助の方法は何故だか魔女(?)からしっかりレクチャーを受けているのです。

「…」

まだ水に浸かるような砂浜から、波飛沫のかからない場所へと、カイカが旅人の身体を押しやろうとしたその時です。

「!」

…カイカは人魚ですから、海から上がっては上手く動けないのです。

むしろ、陸上で長時間活動すると、命に関わります。

「…。」

水の中では自由に動く尻尾も、波打ち際では、ビチビチと跳ねる事しかできず、人間1人を運ぶ事もできません…。

―――これでは、カイカはあの白くて丸いものを手に入れることは出来ません!

「!!!!!」

カイカにも、あの白くて甘くて丸いものが、人間の食べ物であって、人間の町で作られているだろうことはわかります。

けれど、カイカにはそこに行く術がないのです!

「…っ」

よろりとショックを受けたカイカは、無表情ながらも悲痛そうな様子で、ほろほろと涙を落とします。

すると、頬を伝い落ちる内に、それは大粒の真珠になってコロコロと転がってしまいます。人魚の涙は、真珠へと姿を変えるのです。

悲しみのあまり海に飛び込むといった風情で(でも人魚なので入水自殺は出来ません。)、カイカはそのまま海の底へと戻りました。

…旅人は放置のようです。

 

しかし、このとき旅人がうっすらと意識を取り戻していた事を、カイカはまったく気付いていませんでした…。