Unfaithfulness
「何処行くんだ?」
いつものようにクルガンの私室へ訪れたシードは旅支度をしていたクルガンに尋ねた。
俺も着いていくとも言いかねないシードに、クルガンは冷たく返事を返した。
「調べものをしにハルモニアの大図書館まで行ってくる…着いてこようなどと思って はいないだろうな?」
「誰が図書館なんかに着いていくかよ!!」
興味無さげにシードが言うと、クルガンはそれもそうだと言って荷物を纏め上げた。
「んで、いつ帰って来るんだよ…」
俯き加減にシードが言う。そんなシードにクルガンは意地の悪い笑みを浮かべて言った。
「何だ、私がいないと寂しいのか?」
「ばっ、馬鹿!!んなわけねーだろ!!」
悪態を吐くとシードは踵を返し、部屋を出て行こうとする。
クルガンは苦笑を浮かべると、シードを引き寄せ、甘く、長い口付けを送った。
「早めに切り上げて帰ってくるから、そう拗ねるな」
「拗ねてねーよ…」
もう一度口付けを交わし、シードは快くクルガンを送り出した。
クルガンが発ってから、二日目の晩、シードは自室で一人酒を飲んでいた。
しかし、 グラスの中身は全く減っていなかった。
「はあ…、そういや最近ずっとあいつと一緒にいたからなぁ」
もともと、一人で酒を飲むのがあまり好きではなかったシードだが、クルガンと身体 を重ねる関係になってからというもの、クルガン以外のものと飲むことが無くなって いただけに、クルガンの不在は痛かった。
「他の奴と飲もうと思わねーしな…」
手元のグラスをサイドテーブルに置き、シードは部屋を出た。
ただ散歩をしようと思っただけだった。
しかしそれがすべての事の発端であった…。
「んん…」
朝、目を覚ましたシードは見なれない天井に見なれない部屋に起きぬけながらも混乱した。
「目が覚めたか?」
ベットの端に腰掛けていた人物がシードに声をかける。
「ルカ様…?」
起きたばかりな所為か、前髪を下ろしていて印象は違うが、その人物は紛れも無くこの国の皇子ルカであった。
(そっか…、散歩してて…ルカ様に遭って…部屋に呼ばれて…酒飲んで…)
順々に覚鑁のことを思い出してゆく。
「俺…っつぅ……」
起きあがろうとしたシードの下腹部に覚えのある痛みが走った。
(まさ…か……)
シードは恐る恐る自分の身体に目を向けた。
そこには、それと見て取れる情交の痕が残されていた。
「お前の身体、なかなか良かったぞ」
「ル、ルカ様、お戯れは…」
顔が引き攣るの感じながら、これがルカの戯れでないことをわかっていながらもシー ドはそう言うしかなかった。
「…次からは情交の最中にクルガンの名前を呼ぶのだけはやめろ」
シードは絶望的な気持ちでルカの言葉を聞いた。
――――――クルガン以外の者と寝てしまった。
その事実だけがシードの頭の中を埋め尽くした。
(クルガンが不在で良かった…でも…)
誤魔化せるのか? 隠し通せるのか? クルガンに…
そう自問して返ってきた答えは
―――――否
シードにできるのは、クルガンの帰還が一日でも遅くなることを祈ることだった。
ルカの私室を退室しようと扉を開けた瞬間、シードのわずかな望みさえ絶たれた。
「クル…ガ…ン……」
掠れた声で、扉の前に立っている人物の名を呼ぶ。
「このような朝早くからルカ様の相手か?シード…」
ぞっとするような声音でクルガンが言った。
シードは何も言わなかった…いや、何も言えなかった。
浮気現場を押さえられてしまったのだ。
「……来い」
クルガンはシードの腕を乱暴に掴むと長い長い廊下を歩き始めた。
何も言わぬまま、二人はクルガンの自室の前まで来ていた。
「入れ…」
即されるまま、シードはクルガンの部屋に入る。
「クル……」
シードの言葉は浴室を指差すクルガンの無言の威圧に遮られた。
シードはクルガンに指された通り、浴室に向かった。
身体に残ったルカの名残を洗い流しながら、先ほどからのクルガンの様子に身体を振るわせた。
自分が蒔いた種とはいえ、あのように冷たい目で見られることはなかったシードはク ルガンが恐ろしかった。
あの目、あれは自分に対する嫌悪の目ではないのか?
(最悪だ…)
許してもらえないだろう…
自分はクルガンを裏切ったのだから…
本意からではないとはいえ、他の者と寝たという事実は消せない…
クルガンが…、クルガンだけが好きなのに……
「おれにそんな資格は無い…泣く資格も無い…」
シードは頬を伝う一滴の涙を拭い、用意してあったガウンを羽織り、浴室を後にした。
「………………」
クルガンは無言でソファーに座っていた。
シードは浴室から出てくると、クルガンの手が届くか届かないかといった位置に立つ。
「言い訳しないのか?」
「………」
冷たく言い放つクルガンにシードは泣くことを堪えるかのように、きつく瞳を閉ざし、拳を握る。
「現場を押さえられてはできんか…」
「…………」
何も答えようとしないシードに苛立ち、クルガンは徐に立ち上がるとシードのガウンを乱暴に剥がした。
シードの白い肌にルカにつけられた赤い印が鮮やかに残っていた。
「見事につけられたものだな?」
「……………」
「なんとか言ったらどうだ?」
「……ん」
「………………」
「ごめん……」
「………黙れ…」
ぱんっクルガンがシードの頬を打った。
しかしシードは、打たれた左頬を押さえたまま続ける。
「許してもらおうなんて都合の良いことは言わない。でも……嫌わないで……」
シードがそう言った瞬間、クルガンの唇がシードのそれを塞いでいた。
「んっん…………」
一切手加減無しの口付けに、シードは気が遠くなりそうになりながら、クルガンの服 を掴み、やっとの思いで立っていた。
クルガンは何度も何度も頭の角度を変え、舌を差し入れシードの口腔を犯した。
口付けの長さに耐え切れなくなったシードが時折、苦しげにうめく。
そのうめきさえも奪うよう、クルガンは口付けた。
シードの口端から溢れ出した唾液が顎へと伝う。
「ん…はぁ……」
離した唇をどちらのものともつかぬ銀糸が繋ぐ。
「どのように触られた?」
ルカにつけられた痕にクルガンが歯を立てる。
「っつぅ……」
シードの肌が裂け、赤い血が滲んだ。
痛みに身をよじりながらもシードはクルガンのされるがままになる。
(これはクルガンの報復…。クルガンを裏切った俺への…)
潤んだ瞳を向けてくるシードにクルガンは辛辣に言った。
「そうやって、ルカ様も誘ったのか?」
シードの顎を痛いくらいに掴み、クルガンは奥歯をかみ締める。
「そうやってルカ様も受け入れたのか?」
そう言葉を投げかけながら、クルガンは一息にシードを突いた。
「くぅぁああ…………」
凶悪な熱とともに侵入してくるクルガンにシードは嬌声とも悲鳴ともつかぬ声を上げた。
「ん、はぁっ……っくぅ……!!」
「何故…………」
シードはクルガンの声が聞いた気がした…。
しかし、それも一瞬のことだった。
シードの意識はクルガンの激しい攻め立てにより、情事の場へと引き戻された。
その日、クルガンは気が済むまで、シードを犯した。
目を覚ましたシードが見たのは見慣れた自分の部屋だった。
部屋を一通り見まわした後、シードは全てを思い出し、ベットからゆっくり身を起こした。
下腹部は痛んだが、それよりも心のほうが痛かった。
涙が頬を伝うのを感じながらシードはベットから立ち上がろうとした。
が、足に力が入らず、倒れかけたところを部屋に入ってきた人物に支えられた。
「無理をするな…」
「クル…ガ…ン…?」
驚いた顔をして、後退ろうとするシードの腕を掴む。
「何故逃げる…」
「だって…俺は…」
涙を拭わぬままシードが言いかけるがクルガンがそれを遮った。
「もう良い」
「でも!!」
「シード!!」
クルガンが声を荒げ、シードを制止する。
小さく嘆息し、シードを抱きしめると、耳元で囁いた。
「私は許している、だからもう良い…それと…」
――――――ひどくして悪かった。
クルガンの言葉にシードは泣きながらクルガンに抱きついた。
END
あとがき
500番キリリク「裏的浮気」でした。
これで良かったのでしょうか、走様…?(汗)
パソコン打ちに大分慣れてきた今日この頃…。しかし、文章力の無さは相変わら ず…。(爆)
この話は、流石に書いててシード君がかわいそうになったかも(?)。
海月:いや、大分可哀想だと…