必殺隠密人
オレ、シードは隠密。(言っとくけど、あんみつじゃねーぞ。)
上からの命令で暗殺やら、諜報活動とかしてんだ
一一一一一で、今回の仕事はと言うと…
「だあーーーーーーーっ!!なんでオレが花魁になんかーーー!!!」
真っ白に白粉を塗り、金銀きらびやかな衣装に身を包んだ美女(見かけは、)とは思えないような仕草と態度だ。
シードだ
その隣では、少女がどう言ったらいいのかわからないと言った表情でお茶を入れていた。
シードほどではないが、華やかな衣装を着ている、
化粧をせずとも白い肌は、見るものを魅了して止まないだろう。
この場合、少女は遊女ではなく、お茶汲み等の雑事をこなすための者なのだ。
「シードさん、お茶入りましたけど…」
どうします?と首をかしげる仕草は(地の行動なのだが、)少女そのものだが、実は少年だ。
「サンキューあちち、」
舌をだし、湯飲みに息を吹き掛けてから再び口をつける、
「一一一一一そういえば、今回の任務なんだった?」
一息つき、シードが尋ねる
「江戸で行われている密輸の証拠を見つける…花魁に化けて近づいて………」
最後の方は少し躊躇って言う、
もともとカイルは裏家業に手を染めている訳でなく、今回トラン共和国からシードの補佐役として(なぜか)呼ばれたのだ。
「は〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜そうだったよな〜〜〜。」
「色仕掛け…がんばってください。」
励まし、カイルは頭を下げる
「色仕掛け〜〜〜…ってオレがかっ!?どうやってっ!!!?」
「さ、あ…」
「しかも、いったい誰にッ!!」
「それが…わからなくて…この店に来てる客としか………」
「そんないいかげんでいいのか−−−−−−−−−−ッッ!!」
シードが絶叫をあげる
もっともな意見でカイルは顔を臥せる
「…ごめんなさい、お役にたてなくて、」
「あ、いや、カイルのせいじゃねーんだし、」
気にすんなよとシードが慌てて言葉を続ける
「新顔さん、お呼びがかかりましたよ、」
障子の外から色っぽい声が投げかけられ、シードは身体をビクリとさせる。
しかし、すぐ気を取り直すと顔を両手で叩き気合いを入れる。
「うっしゃーーー!!行ってくるぜ!!」
バッターンッと勢いよく障子を開くと、ドタバタと騒がしく廊下を歩いてゆく、
「……………」
カイルはどうか正体がばれませんようにと心の中で祈った。(バレると恥ずかしいから、)
シードの開け放した障子を閉めるために、カイルはゆっくり立ち上がり、外へと近づいた。
着物の裾で動きにくそうと言えば動きにくそうだったが、シードの歩き方に比べるまでもない。
「………」
障子を閉めようとした瞬間どこからか気配が感じられる。
カイルはすっと目を細め、いつでも対処できるように気を張らす、
廊下の端からとことこと歩いてくる音が聞こえた。
「うわ〜んっっ迷子ですーーーっっ」
半泣き状態の少年の声が聞こえてくる、
まだ幼さを残した子供特有の声だった。
「…?」
「あっ、誰かいましたーーーーー!!」
カイルの姿を認め、その少年はバタバタと子犬のように駆けてくる。
「あの………―――っっ!――僕っカナタです!!お名前教えて下さいっッ!!!」
少年、カナタは最初、道を尋ねようとしたのだが途中で目の色が変わりカイルの手をガシイッと握った。
「カ、カイル…」
その行動に戸惑いつつもカイルは自分の名前を告げた。
一目惚れ………。毎度毎度よくやる事だなあ…。
その頃のシード
シードは何故か一人で座敷きに上げられていた。
新入りには珍しい事だったが、相手方が強く望んだのだ。
そしてシードは不味い予感に額に汗を浮かべていた。
『うっだーーーーーーーーーっっ!!なんでいきなり布団敷かれてんだよっ!?(しかも、一つ布団に二つ枕。)ばれるッ!男だってばれる!!いや、そうじゃなくてヤラれるッ!!でも、男だってばれたらヤラれねーかも知れねーケド、バレたら任務がーーーッッ!!』
シードは一人で百面相をしていた。
その様子を見て、咽でククッと笑っているのが、シードを望んだ相手だ。
歳の頃は三十前後であろうか、銀色の髪を撫で付け、一見無表情にも見えるが瞳は楽し気に(どちらかと言えば悪い意味で)笑っていた。
『よしっ!殴ろう!!気絶させちまって逃げよう!!怒られる方がましだっ!!』
そんな事をすればどっちにしろクビだ。
しかし、そんな心配はいらなかった。どのみちシードの運命は決まっていたのだから………。
「…………おい?」
ぐるぐると自分の考えに浸っていると、ふと目の前の男が自分のすぐ側まで来ている事に気がついた。
「なんだ?」
答える間にも、男の手がシードの帯にかかる。
「なっなにしてんだっ!?」
「『遊廓』でやる事といえば、一つしかないだろう?」
じたばたともがくシードを軽く抱き込み、身動きを取れなくする。
「ちょっと待てーーーっっ!!!!」
それでもなお暴れようとするシードだが、急に動きを止める。
暴れるシードの反応を見て無表情だと思っていた男がふいに笑みをこぼしたのだ………。
『は…?何でこいつ笑ってるんだよ………?』
ボォっとそれに見とれると男の整った顔が近づいてくる、
ひんやりとした、それでいて優しい感触がシードの唇に重なった。
「………あ?」
一瞬で離れた感触にシードは何がなんだか解らなくなる、
『今のって…どー考えてもキスだよな………?オレが?コイツと???』
男はフッと笑うと、再びシードに口付ける、今度はもっと長く………
「ふっ………ん、ァ」
絡まされ、甘く噛まれ、口腔内を余す所なく探られる、シードの身体からは抵抗する事も出来ない程、力が抜け落ちていた。
「んっく…」
弱い所を探り当てられ、ぴくぴくとシードの身体が跳ねる。
重ねられていた唇が離れ、シードの潤んだ瞳がぼんやりと男を見つめる。
帯がするりととかれ、一番下に着ている薄い着物姿にシードはされていた。
ひんやりと袂から外気が入り込み、シードはようやく我にかえる、
「!!」
自分がかなり、目の前にいる男に流されている事に気づき、シードは冷や汗を流す。
このままでは本当にヤられる、と思うと本能的な恐怖が身体を支配した。
「ちょっ!まて!!オレはッ!オレは男だーーーーーーーッッッッッ!!!!!!」
思わず自分の任務も忘れ、シードは絶叫した。
床に押し付けられ、裾が乱れるのも構わず暴れたために、形の良い足が太ももの辺りまで見えてしまっていた。襟元も乱れ着物がずり下がり、肩の辺りが色っぽく見えている。
長い口付けのせいで、上気した頬が艶を添えているように見えた。
ゼーゼーと荒い息をつきながら、自ら胸元をはだけ証拠を見せる。
「なっ!?だからもうっっ………」
「知っている、」
『は?』
「知っているといったのだ、『シード』…」
「お前っ…?」
何かいう前にシードは、笑みを浮かべたその男にのしかかられていた…………
結局シードがその日わかった事は、その男の名が『クルガン』である事、
それと、そのクルガンが床上手(?)であるという事だけだった………。
「えっと、カナタ……は、どうしてこんな所に?」
座敷きではなく、二人は庭の見える縁側に並んで座っていた。
少し冷たい風が、薄暗い庭に咲いている花の香を運んで、頬を撫でてゆく
「なんか仕事らしいです〜♪」
「人についてきたの?」
「んー、多分そうです。」
本人にも良くわかっていないのか、しきりに首を傾げている。
「とにかく仕事に来てるんです!!」
何やら得意げに少年は言い切った。
両手を身体の前で握りしめ、本人にはやる気のポーズのつもりなようだ。
なにやら微笑ましくなる、カナタの姿にカイルは笑みをこぼす、
「そうなの……、」
「はい♪」
ぴょこぴょこと足を揺らし、子供らしい仕草をする。年齢的には子供とまではいかないだろうが、彼の持つ雰囲気がカナタを子供っぽく見せているのだ。
「カイルさんはなんで、遊廓なんかに勤めてるんですか?」
「……………仕事だから、」
嘘をつくのが苦手なカイルは、真実をなるべく、『売られてきてここで勤めている』という嘘に聞こえるように少年に告げる。
カナタはそれを聞き、傷ついたような表情になった。―――普通こういった、まだ花魁の給仕などを勤める少女でも2、3年――早ければ1年程――で『花魁』として、花を売らなければならなくなる。という事を知っているのだろう……。
「そうなんですか………」
「―――――うん…」
嘘をつかなければいけない、とわかっていても、少年にそんな顔をさせてしまった事にカイルは罪悪感を感じてしまう、
『―――はやく、仕事が終わってほしい』
そうカイルが思ってしまうのも無理ない事だ…
「あのっ!カイルさん、僕明日も明後日もここに来なきゃいきないんですっ!だから、無理じゃなかったら……………――僕と一緒に『遊んで』くれませんかッ!!」
「………?」
カナタのその言葉にカイルはきょとんとなる、
カイルは『シードのお世話』という事で、シードの側にいる事以外特に用事がない以上暇な事は確かだ。
目の前の少年が、特に含みがあるように見えない以上、ただ暇なので話す相手が欲しいという事なのだろう。
「いいよ?」
「本当ですかーーーッ!?」
ぱあぁvと一気に表情が明るくなるカナタ。
くるくる変わる表情にカイルまで嬉しくなってくる、
「じゃあ!明日また来ますッッ!!―――――あっ!」
カナタは自分が迷子になっていた事をようやく思い出し、時間がかなり経っている事にイヤな汗を額に流した…………。
カナタという少年を見送り、カイルは自分達の座敷きに戻ると…………
そこにはムチャクチャ機嫌の悪そうなシードが寝転んでいた。
「シードさん………?」
思わず後ずさりそうになるカイルだが、なんとか自分を取り戻し、人に聞かれてはまずいだろうと障子をきっちりと閉める。
「カイル………」
掠れた声は、聞くものが聞けば何をしていたのかすぐ解るだろう……
動くのもだるそうなシードだが、瞳にはこんこんと闘志(怒り)の炎が宿っていた。―――いうなれば、手負いの狼みたいな感じだ、
「はい……?」
取り敢えず返事を返す、
「―――今回の首謀者わかったぜ………」
地の底を這うような声でシードは告げた………
「絶対アイツだっっ!!クルガンだ!!オレの正体も知ってやがったし!―――それに…オレのっっオレの〜〜〜〜っっっっ!!!!!」
がああああぁあぁあぁぁあぁっ!!!!!と激怒しながらもシードは動く事が出来ない、
初めての経験だったためか、クルガンが容赦なかったためなのか、シードはズキズキと痛む身体を持て余し倒れている事しか出来ないのだ………。
「えっと…湯あみしますか…………?」
「無理ッ!もうオレは寝るッ!!」
「おやすみなさい、」
「おやすみっ!!」
ばふっと布団を頭まで被り、シードはふて腐れて寝てしまった。
『くっそ〜くっそ〜〜〜っっ!!痛てえよっ!クルガンのバッキャロ〜〜〜っっ!!!!!』
カイルに当り散らす事など、シードには出来ない。今のシードにできる事は、心の中で毒づくくらいだ………。
『もうちょっと優しくしてくれたって……………―――――クルガンのバカヤロ…』
燻る胸の感情を押し殺し、絶対に犯人だっていう証拠を見つけてやるッ!!と、燃えるシードだった。
シードがむちゃくちゃに放り出している、着物を綺麗に畳み込み、洗わなければいけない物を別 にのける。
明日の用意を手際よく済ませると、カイルはふとシードが口にしていた名前の事を思い返す
「『クルガン』さん……………?」
どこかで聞いた事がある名だと思いつつも、カイルはそこそこで思考を中断し自らも布団の中に入る。
カイルの仕事は、シードの正体がバレないようにサポートする事だ………それ以外は仕事ではない。
不人情な事だとは思うが、それ以上の事をすると足を引っ張ってしまう可能性もあるのだ………。
カイルはきつく目を瞑ると、すぐに夢の中へと引き込まれていった。
次の朝、シードはいつもより早く目が覚めた。
身体の調子は、『全快』とまではいかないが『昨日よりはマシ!』ぐらいには回復していた。走る事は出来ないが、歩く事くらいはできるだろう。
「……………」
しかし、いまだ納まらぬ怒りを、なんとか押さえようと冷静に今回の任務を頭の中でまとめてみる。
『えーっとっ!(怒)密輸やってる奴らが、この遊廓で密輸orその相談をしているから、俺が密輸の張本人クルガン(ぜってー!アイツに決まってるっ!!)に近付いて、その証拠を色仕掛けで押さえる………』
「ぐわーーーーーー!!(怒)」
全然無理だったじゃねーかぁああああああぁあぁあああぁあああ!!!!!
「シードさん………?」
叫ぶシードにカイルは、驚いた様子だ。
「大丈夫、ですか?」
「あ、(汗) おう…(汗)」
ちょっと間の悪い感じに、シードも我に返りぽりぽりと頭をかく。
「え〜っと、早いな、」
無難な話題が続き、ようやくいつもの雰囲気に戻り始めた。
カイルが作った朝食を取りつつ、シードはやる気も露に宣言する。
「とにかくっ!クルガンから密輸の証拠を奪うっ!」
「お茶どうぞ、」
「お、サンキュ」
ずず〜…
「旨い。で、ともかく次には絶対!証拠を掴んで、アイツの鼻を明かしてギャフンと言わせてみせるっ!!」
「はい、」
「やるぜっ!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!と、燃え上がっているシードの手の中でバキリ、と箸が折れる…。カイルは、それを見て代わりの箸はあったかな…と考えるのだった。
その日もまた、シードはクルガンに呼ばれていった。
「大丈夫かな………」
心配げにカイルが首を傾げる。艶やかな黒い髪が流れた、
食膳を片付けながら、カイルはふと別の事を考える「そういえば…」と、
「カナタ…と約束…………」
どこで会うのだろう、と。特に場所の指定があった訳ではない、それでもなぜか最後に別 れた場所だろうとカイルは思った。暇とは言え、任務中に他の人物とかかわり合う事は得策ではないが、約束した手前それを破る事は出来ない。
それに―――――
なんとなく、会いたい気もするのだ…………。
全身で、好意を寄せてくる少年が何故か気になる。
「?」
カイルはその感情に首を傾げつつ、支度を終えると座敷きから出ていった。
ともかく洗濯をしなければ、と。
ギロリ…
そんな音が聞こえそうな程、シードは紅の塗られたまなじりで、きつい視線を目の前の男に注いだ。美しく整えられた造作の中で、その瞳だけが妙にアンバランスに映っていた。
クルガンは、ククッ…と笑いを咽で噛み殺す。
しかし、それが又シードの神経を逆撫でしたようだ。
「なんだよっ!?テメェッ!」
怒りの声を上げ、朱塗りの急須のような物を叩き付けた。勢いをつけ過ぎたのか、その茶器の口から酒が溢れた。
今日は離れの座敷きをとっているとはいえ、余り地声を張り上げる事は得策ではないだろう。しかし、シードはそんな事にはお構い無しだ。
「いや……、何故そんなに離れて座るのかと思ってな、」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜自分の胸に聞いてみろっ!!」
またシードは紅色の重そうな着物を引きずり、更に距離をとる。あんな事があった後で、近付けるはずがない。クルガンとシードの間には、1メートル以上の空間があった。無論、酒を注ぎには来るのだが、その時にでもギリギリまでしか近付いてこないという、徹底振りだ。
「大っ体なあ!真っ昼間っから酒なんか、飲むなよなっ……!」
それに、遊廓なんかにも来るんじゃねえっ!とシードは不平を漏らす。大概、『遊ぶ』のにも夕方頃だろう。こんな早い時間などもってのほかだ。
「好きな物を最後まで残しておくタイプではないのでな、」
「は???す?」
シードは白粉を真っ白くぬった顔を、盛大にしかめさせた。
「シード、」
「―――――なんだよ」
何となく、わかったのか、シードは稀持ち分下がる。きつい瞳がたじろんだかのように揺れるのを見て、クルガンは意地悪そうな笑みを零した。
「酒を飲むなといったのは、お前だろう?なら、昨日もいったように遊廓でやる事は一つしかないな」
それに………と更に言葉が続けられる。
「お前の正体がバレては困るのだろう?」
「う゛っ…!―――あ、そういえば!お前なんでオレの名前知って――――…」
シードは最後まで言葉を言える事はなかった。
――――――突然、自らの身体が床に勢いよく投げ足されたのだ。一体何が起こったのかと、目を見開くが、ほどなくそれは理解出来た…。
つまり――――――…「あ〜れ〜〜お代官様〜〜〜」をやられたわけだ。
解けた帯が、シードの腰元から、クルガンの手にまで伸びていた…。
「なっ……」
乱れた着物の間から、肌が露出する。
「何しやがるッ!?」と叫ぼうとするシードだが、目の前に見えた、銀灰の双瞳に黙り込んでしまった。
見据えてくる、強い視線。
「…………」
――――――一体なんなんだよっ…!
そう思いながらも、シードは何かに促されるように目を閉じた…。
紅色の髪が、同色の着物に流れ溶けた。
「っぁ………………く………っ」
熱に浮かされたような声が、明るい部屋の中に響く。
「クルガンッ………」
昨日の今日だというのにもかかわらず………
そんな自嘲的な思いが、乱された理性の中のどこかで浮かぶ。
「………うッアっ…!」
淫らに動く腰を止める事はできず――――…
意識が白く遠のくのを感じた。
昼を過ぎ、夕方近くなった頃、カイルは約束通り少年と会う為に仕事を抜け出した。
「あ…」
ゆっくりと廊下を歩き、昨日別れた場所が見える場所まで来ると、すでに相手が既に来ている事がわかった。大分待っていたのか、縁側に足を降ろしぶらぶらと振っている。暇つぶしに、歌などを口ずさんでいる様子がとても子供らしく目に映った。
何を歌っているのかと思い、声をかけずにそのまま歩いていくと、軽快な音程が耳に届いてきた。
「三千世界の鴉を殺し♪ヌシと朝寝がしてみたいっ♪♪♪」
る〜〜〜♪と機嫌よさそうに歌うが、歌っている歌は非常に艶っぽい歌であり、そんな歌い方をしていいのかというものだった。
「………カナタ、(汗)」
「あっvカイルさん〜〜〜♪」
「その歌…」
「暇そうにしてたら、通りかかったお姐さんが教えてくれました〜!」
にこにこと笑いながらいうが、曲調は自分でアレンジを加えたのだろう。―――いや、ただそういう歌い方になってしまうだけかもしれないが………。
それよりも先にいう事があったと、カイルは気付き、顔を伏せる。
「待たせちゃった…?ごめんね……」
「いえ、全然待ってません!!」
少年はサッと着物の袖で何かを隠す。
「―――?」
「ぼうや、お昼美味しかったかい?食膳はそこにおいといていいからね、」
「待人も来たみたいだし、良かったわねぇ」
くすくすと笑いながら数名の遊女達が、口々に声をかけ、艶っぽい物腰で通り過ぎてゆく………。ちょうど出る時間とぶつかったらしい。
「………(汗)」
「………」
多少気まずい時間が流れる。
「………いつからいたの?」
「………朝からです…(汗)」
とぼけ切れないと思ったのか、カナタはぽつりと正直に答える。しゅんとした面持ちだ。
「朝からって…?!(汗)どうやって、中に…」
驚きのあまり、カイルはそんな事を尋ねる。いくらなんでも(誰かについて来ているとしても)、ここにそんな時間から入れる訳がない。
「裏から入って来たんです…入ってもいいっていってくれましたから」
「〜〜〜〜…」
耳がしょぼんと垂れた小犬の風情だ。
その表情に、カイルは余計に罪悪感を感じてしまう。そんな表情が見たくなかったが為の、少年の嘘だったというのに、
「――――――――本当にごめんね…」
どちらとも間の悪い雰囲気が満ち、話し掛ける切っ掛けがつかめない。
ふいに、カナタが何か足下に置いてあったものを取り上げる。
「あの…コレ。」
「?」
一輪の竜胆
「お土産です。」
「………」
青いその花は、水に漬けられていたのか萎れている訳でもなく、瑞々しいままだった。切られた根元から水滴がぽたぽたと落ちている。よく見ると、少年の足下には水桶が置かれていた。
カイルは僅かに唇を開くと、ぽつりと呟きを漏らした。
「ありがとう…」
素直に、その心づくしが嬉しかった。
頬を染めているカイルに、少年は嬉しそうににぱ〜っと笑顔をみせた。
「えへへへへv」
少年は照れたような笑い方をして、カイルをジィッと見る。
「僕、カイルさんの事好きですから、喜んでくれて嬉しいですv」
「え?」
少年のあっさりといった言葉に、カイルが首を傾げたその時――――――…
「カナタ殿!」
「げっ……」
怒ったような声の呼び掛けに、少年は顔をそれと分かる程に顰めた。
どたどたと近付いてくる足音に、カナタは慌てて立ち上がり、中庭の方へ飛び出して行く。
「今度はちゃんと夕刻に来ますね!」
「用もないのに、こんな所に1人で来られては困ります!!」
「――――あと、次は見つからないように来ます…」
背後からかかる声に、少年は慌てて走って行ってしまう。
「あ……」
カイルは先程の言葉の意味が分からず、聞き直そうとしたのだが、その日間もなくカナタの姿は視界から消えていた…。
「………」
「まったく!」
側で聞こえた男の声に、顔を上げてみるとそこには少年を追って来たらしい商家風の人物が立っていた。
長い髪を後ろで一つに括り、いかにも威厳がありそうな人物だ。この様子からすると、あの少年はかなりいい所の子息ではないのだろうか…?
そんなことを考えていると、男はカイルに蔑むような視線を投げかけ、その場から立ち去って行った。
「………」
――――――――そうだ、ちゃんと任務に集中しなくちゃ………。
「ぜっ!ったい!!アイツのしっぽを掴んでみせるーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
「………(汗)」
着物の裾を乱し暴れるシードをしり目に、カイルは刺激を与えないように、そっと一輪挿しに今日貰った竜胆の花を飾っていた。
『僕、カイルさんの事好きですから、喜んでくれて嬉しいですv』
「………」
なんとなく、少年の言葉が思い出される…。
―――――どういう意味なんだろう?
カイルの考えを打ち消すように、シードの叫び声がこちらに
「次は絶対に殺ってやる〜〜〜〜〜っっ!!―――――って!それじゃ任務違反か!?カイル!どうなんだよっ!?」
「え、っと……(汗)証拠を見つけるだけなので、それは他の人の仕事に…」
「だーーーーーーっ!くそぉっ!!(怒)」
再び暴れ出すシードを見て、カイルは思った………。
『普通より、早く上がれてるのに………調べに行かなくていいのかなぁ…?』
と…。
しかし、今のシードにはそのことに気付く余裕すらない。
夜の遊廓にシードの怒声が轟くだけだった……。
数日間…、任務中とは思えぬ程呑気な日々が続いていた。
シードの方はあまり呑気だとは言えない日々であったが……………
つづく