野生の花

 あいつに聞きたい事があった。

 でも、それを聞くと何かが変わってしまうようなそんな気がして仕方なかった。

 変化を恐れて…、決別を恐れて…、”今”を壊すのを恐れて…。

 今の俺は立ち止まって未来から目を背けている臆病者のと同じだ…。

 だけど、いつまでも立ち止まっているのは性に合わない。

 これ以上その言葉を押し込めておくのはもう無理だ。

 心の声を外界吐き出してしまう…。

 でも…

 

 

 「はぁ…」 

 思わず溜息が漏れる。

 天気は良好。鳥達の囀りも心地良い昼下がり。

 だけど…。

 何処か晴れないのは俺の心だ。

 いつものように仕事をサボってぶらりと出たはいいが、何所にも行くところが無くて、何所にも行きたいところも無くて、ぼんやり中庭の木の上で空を眺めてる。

 この城内で一番高い木に登ると空が一番よく見えると思ったが、如何せん中庭にその木はあった。

 ここはまだ、城が視界に入る。

 「はぁ…」

 また、溜息が漏れた。

 「溜息を一つく吐くと幸せ一つが逃げていくんだよなぁ…」

 誰かが言っていた事をふと思い出す。

 誰が言っていたかは、もう、思い出せない…。

 親だったか…兄弟だったか…それとも、戦で死んだ友、いや、部下だったか…。

 「脳細胞も死滅するらしいぞ。」

 「クルガン…」

 考えに没頭していると、聞きなれた声がした。

 体を起こして下を見ると、しかめっ面をした相棒が腕を組んで立っていた。

 「会議はとっくに終わった。お前はそこで何をしている。」

 「ぼーっとしてる。」

 「………」

 しかめっ面に加え、眉間に深い皺が寄る。

 クルガンのその反応に俺はにんまり笑って言った。

 「嘘だよ、考え事♪」

 「それこそ嘘であろう。」

 「ひっでーのっ!!」

 いつもと同じように笑う。

 笑えた筈だ。

 こういう時の俺は嘘が上手い。

 普段嘘のつけないタイプだけに、俺の嘘に皆気が付かない。

 俺でさえ嘘ついてるなんて思っていないから…。

 「………」

 「何?俺の顔に何かついてるか?」

 木の上からぶらぶらと手を振り子のように振りながらクルガンに問う。

 「下りて来い…」

 「へいへい、またお得意の説教か?」

 茶化して言う俺に一睨みくれるとクルガンは木の根元に座った。

 「?…珍しいの。お前が地面に座るなんて…」

 普段から服が汚れるのを嫌がり、自分から好んで汚れ様としない奴が地べたに座るなんて…。

 少し興味が沸いた。

 だから俺もその横に腰掛けた。

 

 「いい天気だな。」

 「………」

 暫しの沈黙の後、思ってもみなかった言葉がクルガンの口から出た。

 「…何を考えていた。」

 クルガンの問いに俺は正直言って驚いた。

 大体の奴は俺が考え事って言った時点で「そう言ってどうせまた寝てたんだろ?」って言うのに…。

 「何って…」

 「”今の”ハイランドの事か?」

 「……………」

 「図星か…」

 図星だった…。

 参ったね。

 こうも簡単に俺の考えてる事当てられちゃ、たまんないぜ…。

 なんでこいつは俺の事をこんなに見ていてくれるんだろう。

 嬉しい反面、一人で立って行ける自信が無くなりそうだった。

 クルガンの言葉はいつもそうだ。

 俺の感情を全て残らず洗い出してしまう…。

 「今のハイランドに守るべき価値は無い…、そう思っているのか?」

 とんでもない事をさらりと言ってのけるクルガンに驚いた。

 暫しの沈黙の後、俺はやんわり首を横に振り、否定した。 

 「俺達はなんの為に戦っているんだろう?」

 歪んだ笑みが浮かぶ。

 俺の言葉にクルガンは眉を潜めた。

 「何千何万もの人を殺して…その屍の上に築いた国が…いや、国の頂点に立つ者が破壊を望んでる…」

 「俺達は破壊のために戦っているのか?」

 「…………」

 「ここを…あの同盟軍の小さな村の様に荒れ果てた荒野にするのか?!」

 「……シード…」

 感情のまま、声を荒立てる俺をクルガンが静かに嗜める。

 「わかってる、俺のこの発言はこの国将軍としていけないものだって…。でも言わずにいられるか?」

 クルガンは答えない。

 「…俺のこの手、身体には沢山の人間の血がこびり付いてて…、この肩には…その家族達の恨みが積もってる…。」

 「いつも…聞こえるんだ…怨念の声が、さ…」

 「『お前も早く来い』って…。」

 「………」

 クルガンは何も言わなかった。

 ただ、黙って俺の話を聞いていた。 

 「シード…」

 俺の名を呼ぶと手袋を外し、手を差し伸べた。

 俺は…その手を取るのが怖くて…黙ってクルガンの次の言葉を待った。

 「…お前はお前の守るべきものを放棄するのか?」

 「え…?」

 「お前はこの国を愛しているのであろう?ならば何故守ろうとしない。」

 「クルガン…それって…?!」

 驚きのあまり瞳を丸くする俺の頬をひんやりとしたクルガンの手が包み込むように添えられる。

 「お前にはお前の進むべき道があるはずだ…」

 「クルガン…」

 「そして、私がいつでも側にいる事を忘れるな…」

 まさかこいつがこんな事言ってくれるとは思っていなかった。

 俺はクルガンの手に甘えるように頬を擦りつけた。

 クルガンの端正な顔が近づいて来て、俺は静かに瞼を閉じた。

 とろける様に甘く、深い口付け…。

 「俺なんか抱いてると…碌な死に方しないぜ?」

 自嘲気味に笑って言う。

 「………る…」

 「え…?」

 ―――――― 一緒に落ちてやる

 

 

 「ア…っくぅ…」

 自分のものとは思えないような甘く掠れた声が咽喉から漏れた。

 クルガンの雄が俺の粘膜を擦るたび、苦しいまでの快感が身体中を駆け巡る。

 「ってぇ………ぁあ、…んっ…」

 背中に当たる木が痛くて身を捩るがクルガンに片足を持ち上げられているため、全く動けず、それは意味をなさなかった。

 体重を支えている方の足の踏ん張りが利かなくなってくる。

 俺は諦め、凭れ掛かり木に全体重を預けた。

 クルガンが腰を前後させる度、木はその枝から葉を落とした。

 ぱらぱらと落ちる葉が地面を覆ってゆく…。

 最早ここが何処かなんて今の俺達には関係無かった。

 事実、俺の頭の中からそんな事は吹き飛んでしまっていた。

 只、本能の求めるまま俺達はその行為に夢中になった。

 

 何度こうしてこいつに抱かれたんだろう?

 何度こうしてこいつに救われたんだろう?

 言葉はなくとも心で分かり合える…。

 視線が重なるだけで互いの思いが流れ込んでくる…。

 

 「あぁぁ……!!」

 絶頂の瞬間、クルガンの熱を体内に感じながら俺はその背に縋り付いた。

 

 この背はいつも俺を安心させてくれた…。

 大丈夫…不安に思う事なんて何も無い…。

 いつだって俺達は同じ道を歩んできた。

 いつだってクルガンは俺の隣にいてくれた…。

 

 視界の端に名も無い花が目に移った。

 何所から流れてきたのか…。

 何所にでもある花。

 りんと咲くその花は宮中の高級な花々に勝るとも劣らぬ気高さがあった。

 雨風に負けず、自然の中で逞しく生きる…野生の花…。

 

END

一応…シードと花をかけてみたのですが…。
あはは…上手くいきませんでしたね…。(滝汗)
シリアス青姦という事だったのですが…
こ、これで宜しかったのでしょうか???(=x=;)
因みにBGMは『飛●ない鳥』です…。(殴)←絶対違うって…

深海紺碧