例エバ君ガ居ナケレバ

 

 

僕の大切な人、

それは一番欲しかった人―――――…

どうしても手に入れたかった……

 

 

 

 

 

あの人の心には傷があった。

痛々しい程の傷付き、血を流し続けている深い痕が……

僕にはそれを癒すすべはなかったけれど…それを忘れさせる事は出来た。

傷付き、血は流れ続けているのに、痛みを感じさせないように麻酔の役割を果たす…

 

―――――――――何も考えないで…僕が側にいますから、

 

それは癒しではない、過去を切り捨てる事も、受け入れる事もさせずにただ目を逸らし続けさせるだけ、

―――――わかっていた、分かっていたけれども僕はそれを逆手にとった…。

ゆっくりと周囲に糸を張り巡らし、あの人の心を絡め取るようにして手に入れた―――…

 

―――――――――いつか、いつか別れが来たらどうしよう、

誰か強い力を――…傷を癒せる程の強い力を持った人が現れたらどうしよう…

 

 

いつも怯えていたように思う…。

 

 

 

 

 

 

雨ノ日デモ、曇リノ日デモ、太陽ハ地上ヲ照ラシ続ケテイル

ソウデナケレバ、朝ガ来ナイカラ…

陽ガ出テイナイト人ハ言ウケレド、太陽ハ朝ガ来レバイツデモ地上ヲ照ラシ続ケテイル……

 

 

今日は曇っていた。気候の良いこの土地では意外に珍しいかもしれない…。

―――グラスランド。

こんな所まで来てしまった。―――――『あの』戦いの後、2人だけで旅にでて、

―――無論、カイルさんが言い出した事ではなく、僕が言い出した事だ。

困ったような表情のあの人にだだをこね続けてようやく了承を得た―――あの頃の記憶。とても懐かしく感じてしまう、

あれからもう十数年…………

 

 

 

「なんか…よくわかんない所に出ましたね、」

「…………うん、」

「なんか怪しそうな場所ですけど、今日はここらで休みましょうか、」

わざわざ怪しい所で野宿をしなくともいいだろうに、少年は呑気そうに言い放ちながら、サクサクと準備を始めていた。

重苦しい雰囲気を放っている冷たい洞窟の前に腰を下ろし、薪に火をつける。

「この辺、気候が結構いいですから、寝やすいですよね」

「うん、」

カイルに毛布を手渡しながら、少年はパチパチとはぜる火の前でカイルと語り合う。―――といってもほとんど一方的な会話なのだが…

膝に毛布を乗せ、2人きりで夜を過ごす―――――…いつもと変わらぬ夜だった…。

しかし

 

――――――ふいに気配を感じた。

 

「?」

獣か何かかとしか感じさせない程度の物だったが、カナタは反射的に視線を向けていた。

 

「こんばんは」

 

からかいを含んだ男の声が響いた。

「!?」

予期していなかった存在に少年は一瞬後慌てるが、男は至って呑気な様子で口を開く、

「オレも火にあたらせてもらっていいかな?」

 

 

本能が何かを告げる―――――…

ある意味『恐怖』にも似た感情が……………『失う』事への……

 

 

 

硬直してしまった少年の代わりに、その隣に座るもう一人の人物から男への返答は放たれた。

「どうぞ……」

「カイルさん!?」

あっさりと頷いたカイルに、カナタは焦った声でそれを止めようとする。

さすがにカイルはそれに訝し気な表情を見せるが、カナタにはそんな事は構っていられなかった。

心臓が嫌な予感にバクバクと脈打つ。

「ダメですよ!こんな頭に羽つけてる人を簡単に側に近付けちゃあ!!」

「カナタ……」

失礼だよ…、と困った視線でカイルが告げる…。

「それになんか意外に赤い服ですし!3人混ざってたらお揃いみたいな感じでかなり嫌ですよ!!」

「ムチャクチャいうな〜?」

呑気そうな男の声が更に少年の神経を逆撫でした。

「そうだよ…カナタ、困ってるんなら助け合わないと……」

「〜〜〜〜〜っ」

珍しくカイルのはっきりとした意志に、少年は止める事は不可能だと悟った…。

その2人のやり取りに、男はニッと人を引き付ける笑みを浮かべていた。

「いい事言うね、そっちの人。」

瞬間的にカナタに殺意が芽生える…。

「オレの名はカルナ、『しばらく』よろしく☆」

「―――――、」

さり気なく、一緒に行動する事を告げている…

ちゃっかりとしたその行動にも、確かに人を引き付ける何か……カリスマのような物があるように、カナタは感じた…。

 

 

 

 

 

例えば僕はロウソクの火のような存在だとする。

周囲に闇が満ちている時には、それは辺りを照らす唯一の存在になるだろう。

あの人の――――…カイルさんの心は闇に支配されていた。

僕はそれを少しだけ照らして、明るくする事ができる。

そう、例え僅かな物だとしても、それは側で見たならば、充分に明るく映る事だろう。

ただ、――――心はまだ闇に包まれている。

幾らロウソクの火を灯そうとも、決して埋め尽くせる物ではない……闇は闇のままだ。

そう―――――――――……本物の、太陽の明るさには決して勝てるはずがない…

 

 

 

 

 

「カナタ……?」

「………」

「カナタ?」

呼び掛けられた声にようやくカナタは自分の思考から抜け出す。

「え、はい?なんですか?」

「………元気、ないから…」

「あーー…ちょっと夢見が悪かったんです…なんか『漢の祭り』とかなんだとかで、30人ものふんどし男達が走り回ってる夢でー、」

「…………(汗)」

本当の所は違うのだが、カナタはそんな事を言ってごまかした。――――本当の原因はカルナと言う男にあった。

最初に宣言した通り、彼はずっとついて来ていた。

特に目的のある旅ではないらしく、カナタとカイルに同行しているのだ。

―――――――イライラする。

ずっとずっとイライラする――――…

 

噛み締めた唇から僅かに鉄の味がした…。

 

 

「目に生気がないな」

「………」

カルナと名乗った男は、カイルの顔を覗き込みながらそう言った。真剣な表情に少しからかいの色を浮かべて、

三日目の野営の準備の事だった。

「まるで人形みたいだな、」

カナタがくっつき過ぎだと講議する一瞬前に、カルナは身を離す。まるで、既に予期していたかのような動きだ。

さすがにカナタももう文句をつける事が出来なくなった為に、威嚇するように更にカイルの側に近付くだけだった。

三日、既に三日経っていた。カルナと名乗る男に2人が会ってから、

既に火は落ちていて、たき火のみが辺りを照らす唯一の存在となっていた。

場所はまだ、例の洞窟の見える位置。急ぐ旅ではないとは言え、ここまで移動しないと言うのも珍しい事だった――――…

「…………」

カイルは男からの言葉に、やはり黙ったまま目を伏せている。ただ瞳に沈んだ色をたたえるだけで、

「……そんな失礼な事言っていいと思ってるんですか、」

ついに堪え切れなくなったのか、カナタが食いかかるが、相手はからかうような表情を浮かべるだけだ。

「失礼?見たままを言っただけだろう?」

「〜〜〜〜っ」

少年は顔にありありと、『ムカツク』という感情を表していた――――…けれど、何も言い返せないでいた。

「まあ―――、いいけどな、何が会ったとかは聞かない。だけど、何かから逃げ出すのと、それを受け入れた上で道を選ぶのは別 物だ」

「――――」

何かを知っているような男の口調に、カイルは僅かに反応を示しただけで、何も言わなかった。

 

その日は会話はそれだけで終わり、ぎこちない空気の中、就寝の準備に入った…。

 

 

 

 

 

とられるとられるとられる…!

奪われる―――――…

 

そんな焦燥感が身の内を焦がしてゆく…

眠る事などできるはずもなく、カナタは音も立てずに身を起こした。

………周囲を見回すと、少し離れた所に、カルナが岩を背に座っている姿と、すぐ隣にカイルが身を丸くして眠っている姿があった。

――――しばらくカルナを見ていたが、相手は身じろぎ一つしない………

 

―――――いや、そんな事はもうどうだって良かった。

 

カナタは無防備に晒されたカイルの白い首に手を伸ばす――――…

ソッと、両手でそれに触れると、規則的に繰り返される呼吸と鼓動とが手の平から伝わって来るのがわかる。

 

―――――――誰かに渡すくらいならば、いっそ壊してしまった方が良い

 

壊してしまえと誰かが告げる…

力を込めただけで、この呼吸も鼓動もすぐに止まり、そして………………自分だけの物になる。

簡単な事だった…。

「……………」

グッと、僅かに手に力を込めてみる。

ピクリと一瞬で呼吸が止まり、どくどくと早まったような脈が手の平から伝わった。

「―――――…」

 

 

このまま…

 

 

このまま…ッ

――――――――――――――――――――出来ナイ…。

 

「ッ……」

そう思った瞬間、カナタはカイルの咽から、手を離した。

「っはぁ…!はぁ……!」

まるで自分が閉められていたように息を荒あげると、恐る恐ると、カイルの口元に手を近付ける。

……………息はある。

先程まで首を閉められていたとは思えない程、まるで何もなかったかのように規則的に続けられる呼吸…。

「…………」

ほっとしたのと同時に、自分が犯そうとしたコトに…………いや、やろうとして、『やれなかった』現実に、カナタは愕然とした。

 

殺せない―――――――出来ない、どうしようもない、だから取られる!

 

「っ……!!」

何から逃れたいのか、自分でもわからないままに、カナタはその場から駆け出していた。

 

 

 

そして、何の動きもなくなったかと思ったが…

 

 

「………起きてるんだろ?」

 

しん…と静まり返った気配の中、急に声が響く

「…………」

岩に背を預けたままの男が口を開いていた…。相手は無論――――…

 

「………はい、」

 

いつから起きていたのか、うっすらとカイルが瞳を開いて返事を返していた。

その途端に、苦し気な表情を浮かべて激しく咽せ込んだ。…細い首には、くっきりと首を絞められた痕が残っている…。

カルナはただ、それを収まるまで黙ったまま見つめていた。

「――――…っ」

そして、カイルが顔を上げた時、既にカルナは目の前にいた。

今まで見せなかった、意志の強い苛烈な瞳がそこにあった――――…

「いいのか?」

「…………」

何を、とはカイルは尋ねなかった。

 

―――――――――――このままでいいのか?

 

聞かずとも、そう全身で伝えて来ていた…。

炎の英雄……炎の運び手のリーダー…真なる炎の紋章を宿した過去の………

 

「……………」

 

カイルは僅かに目を閉じると、スッ……と目を開いた。

「――――――はい、」

元々の意志の強さを僅かに宿した瞳…。

カイルはしっかりと頷いた。

「オレが背負ってやろうか?」

からかいの含んだ視線、…悪い物ではなかった。

しかし――――――…

 

「いえ―――――…選んだのは僕ですから、カナタを――…」

 

不意にもれる笑み、

首を絞められてもなおそう言い切る意志。

 

「―――うん、」

何事かカルナが言いかけた瞬間、煩い程の足音が近付き、ガサガサと茂みが激しく揺れた。

「っ………!」

ぼろぼろと涙を流している少年の姿があった。

「カナタ………」

「っうわ――――っっ!!!!!」

大泣きとしか言い様のない状態で、カナタは体当たりのような勢いで抱き着いて来た。

「捨てないで下さい―――っ!!」

本心からの叫びが、どれだけ少年が本気で言っているのかを伝えて来る…。

カイルの背後に廻された腕には痛い程の力が籠っている。

「離れないで下さいっ!――好きなんですっ好きなんですっ…!」

「カナタ…」

カイルにこの少年から離れる事なんて出来はしなかった…

カイルは苦笑を浮かべて、同じような表情をしているカルナを見る。

カルナはふっと溜息を尽きながらそれでも笑って言った。

「冗談だよ、オレは自分のコトで手一杯で、他人の事まで面倒見切れないさ、―――――それに嫁さんもいるし、」

最後の言葉は小声で呟いていたが、2人の耳には届いた。

「…っは?」

しゃくりあげながら、カナタはカイルの首元から顔を上げて男を見るが―――――…

 

「まあ、邪魔したな。機会があればまた会おう」

 

にっこりと笑って―――――――消えゆく瞬間であった。

そう、空気の中に溶け込むようにして……それはまるで…

 

 

「幽霊ですーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっっっ!!!!!!!!」

 

 

それまでのショックも消し飛んで、カナタは絶叫した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、2人は例の洞窟から遠ざかる事に決めた。

「もう二度と会いたくないですよねっ…!」

「…………」

ブツクサと文句を言いながら、少年は出発の準備を整える。

カイルはただ黙ったまま、汚れを払い、棍を手に持つ。

 

「カイルさん、次はどこに行きますか?」

 

カナタはじっとカイルを見つめ、手を出した―――――――…誘う様に、願う様に、

 

「……そうだね、」

 

カイルは手をとった。―――――――…自分の意志で、選ぶ様に、

 

 

 

 

後悔はしない、自分で選んだ道なのだから

決して傷は癒えなくとも、永遠に血を流し続けていたとしても…

 

決して間違ってはいないはず

 

自分で選んだ道なのだから、

 

 

 

END

 

 

もきょv

三角関係?

リクをちゃんとこなしているのか?

ただ暴走したような気がしてならないv

 

……………………………………ごめんなさい。(土下座)

 

長らくお待たせした上に、訳のわからない物を完成させて…

しかも、中途半端に長くて訳わからないです…(涙)

やなせまい様〜〜〜っ!!精一杯やってみました〜〜っっ!!(泣逃)