例えば貴方がマジメになったなら?

 

「―――――カナタが真面目になった?」

 

(しばらく同盟軍…というかカナタからの誘いがなかった為、)自宅で待機していたカイルは、ビクトールら同盟軍メンバーらに言われた事が理解できずに首を傾げた。

―――しかし、相手の方は、ただ真顔で、そして沈痛な面持ちで頷くだけだ。

一体どういう意味かと少し考え、カイルは口を開く。

「……いい事、じゃないの…?」

…ふるふる。

力なく、ビクトールらの首が横に振られる。

「最初は俺等もそう思ってたんだけどな…」

「違ったんだっ…うっ!!;」

フリックも何とか言いつのろうとしたのだが、その途中で腹を押さえて踞った。持病の神経性胃炎だろう。

「…何が?」

「…一週間だ、一週間も通常業務を真面目にやってるんだよっ!!」

あいつがっ!あのリーダーがっ!と驚愕も露に叫ぶ。

 

――――そして、それを聞いたカイル自身も驚いていた…。

 

今現在、戦争でも行っているのだろうと思っていたのだ。まさか通常業務とは………

ヨタカが星になったというくらいに驚いたカイルだ。(感動?)

「…真面目になった、の?」

「「変になったんだっ!!;」」

…その後は、同行して来た兵士さえも入り交じり、我先にと、口早に喋り出された。かなり聞き取るのは困難だ。

 

「ロボトミー手術だっ!ロボトミー!」

「妙な物を食べたとかっ!」

「いつカナタ様が何をやらかすか心配で神経がまいってしまってっ…!」

「こんな事ならいつも通り小出しに何かされる方がマシですっ…!(泣)」

「ハルモニアのヒクサクの仕業だーーーっ!!」

「例の炎の英雄のっ……!」

「一日で書類を片付けて―――――っ!!」

「庭掃除を!」

「シュウと見かけだけでも歓談っ!」

「今にきっとジンマシンを出されて倒れますーーーーーーーっっ!!!」

 

…耳がキーンッ!となってしまって、カイルは思わず耳を塞ぐ。

そして、一同が少し落ち着くのをまってから、口を開いた。―――本当は、カイルにも返答はわかっていたのだけれど………

「…それで、」

 

「「「「「「一緒に来てくれ(下さいっ!!) 」」」」」」

 

「…………(汗)」

無論断る事など出来なくなるカイルだった…。

 

 

 

 

「………」

カイルも確信した。そう、もう一目見て、

 

――――――これはだ、と。

 

「あ、カイルさんこんにちは、お久しぶりです」

「ねっ!カナタッ!!ねっねっ!何か辛い事があったんならお姉ちゃんに言ってちょうだい!」

「あはは、何もないってば、ナナミ〜」

「うそよっ!絶対うそよっ!!カナタッ!!」

机にきっちり座り、キリリとした表情で仕事をしながらナナミと話しているカナタの姿がそこにはあった…。

しかも、久しぶりに見たであろうカイルの姿を見ても、抱き着きもしなければ、熱烈キッスもしない。

 

「………(別人?)」

「………(本人だ)」

 

思わず指を指し示して尋ねるカイルに、首を横に振るフリック。

こんな様子に命の危機(騙しておいて殺す気なのかと疑い)を抱き、シュウは三日目で倒れたらしい。

今まで通りの彼ならば…

『カイルさーーーんっっ!!一週間振りですーーーっっ!!会いたかったですーーーっ!!そして僕に会いに来てくれたんですねーーーーっっvvvvv愛ですよねっ!?ラブラブファイヤーですよねっ!ていうかフリックさん邪魔ですーーーっっ!!(怒)僕とカイルさんの仲を邪魔するやつは誰であろうとも容赦しませーーん!!!!!』

『どわーーっ!!;』

『………(汗)』

抱き着いたままの格好で『許す者の印』を連発する事は確実だろう。(しかもそれくらいではまだ終わらない事も確実だ。)

それが今では……

 

「カナタじゃないわーーーーっっ!!(泣)」

「ナナミっ!?」

堪えきれなくなったナナミがダ〜〜〜ッ!とダッシュし、フリックの背後にまわり込み、マントを掴む。…防御壁らしい。

「………カナタ、」

「カイルさん?」

どうかしたんですか?とカナタはようやくペンを置く。

…どうかしたのはカナタの方だと、口には出さないカイルだがそう思っている事は確かである。

「………」

カイルはじっとカナタの目を見る。

「?」

―――――操られている訳でも、騙している訳でも、妖しい薬を常用した訳でもないらしく、正常な瞳の輝きをしている。いつも通 りのカナタの目だ。

―――ついでに、熱があるかも…と、カイルは少年の額に手を伸ばし、自分の温度と比べてみる

「熱はないですけど?」

「………」

その通りだった。

しかし、何か悪い病気である事は確かである。

「………フリック、」

カイルは困った表情で、フリックを振り返った。そこには、諦めの境地にいたり、神経をすり減らし窶れた男の顔がある。

「…な、真面目になって変になったとしか言い様がないだろ…?」

むしろ、これが正常の人間なのだろうが、

「カイルさ〜んっ!カナタが真面目で変になっちゃったの〜〜っ!!(泣)あたしもうどうしていいのか〜っ…(泣)」

でもお姉ちゃん、カナタならなんでも受け入れるわ〜〜〜っ(泣)とそれでも叫ぶナナミだ。

別名やけくそとも言う。

 

…真面目、

 

普通に、正常に、一人の少年(人間)としてまともになっているのなら、普通に考えて、一応は不自然な自分との関係はどうなるのだろうと、我知らず身を強張らせるカイルだ…。

「……カイルさん、」

「………」

「…こんな時に言うのはアレなんですけど、」

僅かにカイルの肩が揺れる。

「――僕との関係…」

「………、」

スッ…と心が凍り付く。

 

「――――――交換日記からやり直しましょうっ、」

 

「……………」

ガシィッ…!と手を握っての真面目な提案をされたカイルだった。

 

「…そう来たのか……(汗)」

「愛は変わらないのねっ!お姉ちゃん、ちょっとカナタらしくて安心したわっ!」

ギャラリー2人がバラバラな感想を漏らす。

 

「僕はやっぱり反省したんです…未成年の恋愛はきちんと基礎からの積み重ねが大事だって、」

「………」

取りあえず、カイルには断る理由もない為、カクンッと力なく首を縦に振った…。

――――もはや、何に突っ込んでいいのかワカラナイ。

 

 

 

その後、無理矢理、「トランの英雄様が来て下さったのですからっ…!」と執務室から追い出され、(ありえない状況)2人はカナタの自室に閉じ込められた。もはや、城内の人間もおかしくなりそうな極限の状態にいるらしい。

 

そして…

 

「――――――この考え方ってどう思いますか、」

「………………………………うん」

哲学の本なんかを引っ張り出して来ているカナタに、カイルは普段ではあり得ない会話を強いられていた。

「………………………………(なんか、疲れる)」

まったく持って、リアクションのしようがなく、落ち着かない気分にさせられているカイルだ。これはもう、城内における全てのメンバーが経験している事だったが、

とにかく、カイルは少年のセリフを全部聞き流し、考えをまとめようとする

 

――――――今の状況はおそらく、悪い物ではない、…と思う。

 

カナタは何の騒動も起こさずに、毎日仕事と鍛練を続け、無闇矢鱈に自分に抱き着いて来たり、押し倒してこないと言う特典もある。

「………」

今までの方がおかしかったのだと、カイルは思った。…少々酷いが、

しかし…自分にそう言い聞かせながらも、その一方で何か間違っているのだと言う考えも捨て切れないでいた。

「………(悩)」

しかし、何が違うのかが、わからないでいるカイルだ。

元々、この手の感情に疎い為と、今まで考える時間がなかった為にと、なかなか結論がでない。

うーむ…とばかりに考え込んだまま、カイルはふと視線を床に向ける。……と、よく見てみると、ほとんど誰も見ないであろうそこには、透明な小瓶が転がっていた。

「………(まさか…;)」

ラベルを見ると、

『人格変換薬v〜真面目編〜』

よく見慣れた字体でそう書かれていた。

「…やっぱり;」

「え?なんですか?」

さわやかな笑顔をカナタから、向けられ、耐え切れずカイルはサッと目を逸らした。(多少悪いと思いつつも、)

 

――――さて、どうしよう…

 

カイルは悩む、今のままなら平和(?)だが、いずれカナタの体は耐えかねてよくてもジンマシン、悪くて発狂するかも知れない。そして、治すにしても治療法は――――…

『愛のキッスvです!』

…だと思われる。

「………」

今の状態では自分からするしかないだろう。

それは嫌(というか恥ずかしい)なカイルは、こっそりその小瓶を元の床の上に戻す。

結論が出たらしい。

「……………」

しかし、これで本当にいいのか、と再び悩んでしまう。

出合い頭に抱き着かれない、四六時中くっつかれない、―――適度に距離のある状態になる(らしい)…

先程から、微かに胸を騒がすこの感情は――――

 

 

さみしい…

 

 

「…………?;」

の、だろうか、と考えてみるが、そうであるかそうでないのか自分でもよくわからない。

困ったような表情でカナタを見るカイルだが、それに気付かず相手はふと思い出したように別 の話題を口にした。

「あ、カイルさんお部屋用意させましたから、今日からでもそっちへどうぞ」

「え?」

「え?だってそれが普通です、よね…?」

確かにそうだが―――

「…………」

 

――――――――チガウ。

 

反射的にそう思ったカイルだ。

一瞬にして血の気が引き、パニック状態になる。

「カイルさん?」

「………ッ」

自分でもどう言う感情が働いたのかわからないままに、カイルは目の前の少年に抱き着き…

そして――――――…

 

「…カイルさん………?」

 

「………」

唇は、一瞬で離れ、カイルの前にはパチクリと目を瞬かせるカナタの姿があった。

泣きそうな、縋るような表情のカイルにカナタは…

「カイルさ…………………………………うーーーーーーーーーん…(汗)」

ばったりと倒れた。

しかも、土気色の顔で、

 

「カナタ!?;」

 

 

 

 

「カイルさーーーんカイルさーーーーんッ;死ぬーーー死んじゃいます〜〜〜〜っ(汗)せめて死ぬ 前にカイルさんとイチャイチャラブラブな甘い関係で裸エプロ…――――グハアッッ!!;…せ、せめてうさぎリンゴを剥いて下さい〜〜〜〜〜っ…(泣)カイルさーーーーん」

「胃潰瘍ですね、」

「そうですか…(汗)」

いつも通りの事を言ったカナタに、枕をぶつけ、それからリンゴを剥いているカイルは、ホウアンのその診断にため息を漏らした。呆れと…安堵から、

「近頃、城で一番はやっている病ですよ…」

まあ、それも『愛の力』(仮)で元に戻った少年の姿を見れば、全員が(一時)回復する事だろう。

 

…結局、カナタは薬を間違って飲み(『ふっ…完成ですーv咽が乾いたから何か飲み物―――はっ!飲んじゃいましたーっ!;』…なかんじで、)あんな事になったらしい。

「カイルさーんvカイルさーんv食べさせて下さい〜〜〜〜あーんvって!ぎぶみーラブ☆ですーーー!!」

「………うん、」

 

副作用からか、いつも以上のテンションになったカナタに、カイルは黙ってリンゴを食べさせる…。

――――結局自分の感情は、よくわからないカイルだったが、それでもわかったのは、やはり今のままのカナタがいいと言う事だった…………

 

 

 

 

真面目の意味を逆手にとった、ギリギリなキリリクになりま死た…(吐血)

すみませ…(撲殺)