赤子戦争
ある晴れた日の事………。
「ねえねえ、カナター!あそこになんか落ちてるよっっ!!!」
「え、どこどこ?」
珍しく、姉弟2人っきりで散歩していた時の事だ。
ナナミは本拠地近くで何か見つけたらしく、カナタをグイグイ引っ張る。
「あそこよっ!あそこーーー!!」
ナナミが指差したのはいかにも『何か(捨てられた)生き物が入っています』というような箱だった。
「ホントだ…。犬かな〜?猫かな〜?どっちにしてもカイルさんには見せないように……―――!?」
とか言いつつも、カナタは中に入っている生き物を拾おうと、ガサガサと箱を空けている。
しかし、箱の中にはカナタの予想をはるかに上回るモノが入っていたのだった。カナタは思わず、箱を開いた姿勢のまま硬直してしまっている。
ナナミも深刻そうな表情で口を開く。
「これって………」
「カナタ殿!」
こそこそと自室に戻ろうとする怪しい軍主を見とがめ、シュウの叱責が飛ぶ。この人も苦労人である、こんなリーダーを持ったばかりに………。
「なっなにっ!?」
「そうよっ!シュウさん!!カナタに何の用なのっ!!」
かあっ!と威嚇するように声を上げる2人だが、その声もどこか控えめである………ますます妖しい。
カナタは何かを隠すように身体を丸め、ナナミはそのカナタを更に隠そうとしながら歩いている……………。
コレで怪しくないと言う方がムチャな話だろうが、カナタとナナミにとってはかなりマジなようである。
「………………何を隠しているのですか?」
シュウはカナタのぽってりとした(いかにも何か入ってますな)腹部を見ながら言う。
「なっなんにも隠してないッッ!!」
「そうよっ!シュウさん!!カナタのお腹にはなんにも入ってないんだからッッ!!」
バレバレである。
2人の抗議を無視して、シュウは話しだした。
「いいですか、カナタ殿。私は別に動物は拾ってくるなとは言わな――もうしません。ええ、限度と言う物をわきまえておられるのなら、」
「くぅーーっっこっちは急いでるつーのにッッ!!(怒)」
「シュウさんのお説教が始まっちゃったーっっ…」
2人は顔を見合わせて頷きあう。
シュウのお説教から逃れんがために、兄弟攻撃を発動する……その時、周囲から声をかけられた。
「リーダー、ま〜た動物拾ってきたのかぁ〜?」
「シュウも犬の一匹や2匹で目くじら立てなくてもいいじゃねえか、」
どこかこの幼いリーダーが騒動を起こすのを楽しんでいる感のあるシーナとビクトールの言葉だ。
当然、シュウの怒りの鉾先はこの2人に向かう。
「大体貴様らがそんな事だから――」
「うわっ!」
「やぶ蛇だったな…」
「今度は一体何を拾ってきたんだ?」
フリックは(珍しく)運良く、シュウのお説教攻撃をシーナとビクトールにまかせ、カナタとナナミに話し掛ける。さすが保護者といった所だ。
しかし、それで白状するような2人でもない。
「「なんにも拾ってきてませんッ!!」」
声を合わせて、否定する。
喋っている最中にも、ジリジリと後ずさり続けている。
「少しは懲りると言う事を学んでみてはどうですかなっっ!!!!(怒)」
シュウの怒声が響き渡る。
かなりの大声に、ビクトール達は耳を押さえているほどだ。
「うわっっ!そんな大声出したらッ!!!」
そう言うカナタの声も小さくはなかった。何やら大声を出すと、相当まずい事があるというように焦っていた。
原因は少年の腹の中のモノにあったのだ。
―――――――――〜〜〜〜〜〜ほぇぁっほえあっほぎゃあぁ………
「―――――あ゛…」
どこか、誰にでも聞き覚えのある、ある生物(?)の泣き声が聞こえてくる。カナタの腹部から。
正確には、カナタの服の中に隠してあるモノからだが………。
「「「「カナタ(殿)………」」」」
「カナタぁ………」
全員の視線がカナタに痛い程突き刺さる。ナナミからはすがるような視線だ。
「―――――うっ(汗)」
中の生き物は、『こんな所はイヤダ』というように、ますます泣き声を大きくしじたばたと苦し気に暴れている。
さすがのカナタも観念し、服の中からその生物を取り出す。
中にいたのは、まだ首も座っていない、三ヶ月程の赤ん坊だった………。
頼りなげな柔らかな身体が、危なっかしい手付きで抱かれている。
「う…産まれちゃったじゃないですか………」
「「「「産まれるか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」」」」
4人からのツッコミに、カナタはたじろいだが、なんとかグッと気を取り直す。
「どこから拾ってきたんですかッッ!!」
今にも血管が切れそうな勢いのシュウだが、カナタはそれでも譲らない。
「拾ってない。さっき産んだ………(汗)」
「カナタカナタ〜お姉ちゃんにもだっこさせて〜vvv」
フルフルと怒りに震えるシュウをしり目にカナタは、赤ん坊をナナミに手渡す。手荒にあつかっているのではないのだろうが、いかにも初めて触っていると一目にわかるような渡し方だ。
「産んだって……お前がかぁ〜?」
シーナの疑わしそうな目に、カナタはそれは幾らなんでもムリがあったと改めて他の言い訳を考える。
「僕じゃないですけど………(汗)」
「じゃあ誰が産んだんだ?」
初めは驚いたシーナとビクトールだが、今は面白さの方が先立っているようだ。いかにも楽しんでます、の顔でカナタに話しかけていた。
「それは〜(汗)」
「「うんうん♪」」
「それはですね〜〜〜〜っっ(滝汗)」
幾ら何でも、もうそろそろ止めるか、とフリックが立ち直った時、カナタはとんでもない事を叫んだ……………………。
「コレはカイルさんが産んだんですーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!」
「「「何イィーーーーーーーーーーーーッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!?」」」
カナタの叫びに一同も負けないぐらいの絶叫を返す。
その心は……………。
『アイツならあり得るかも………』
だ。
バタバタと慌ただしく駆け去ってゆく一同の中、ナナミだけがいつもの調子だった。
「いないないばあーーーーー!!!!!泣き止んでーーーー!!!!!あれ?カナタお姉ちゃん置いてかないでよー!!!!!!」
危なっかしい手付きで、赤ん坊をあやすが赤ん坊はそんな事で泣き止むはずもなく、ナナミはなるべく大事に抱き締めると一同の後を追いかけて行った………………。