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カイルは本を読んでいた。

「…………」

図書館から適当に借りてきたのだろうが、間が悪いと言うか何と言うか………。

本のタイトルは『赤ちゃんの育て方』だった………。

特に本を読むのが好きと言う訳ではないが、カナタの用事がある時の暇つぶしにはなるらしい。

本来なら、こんな時には帰宅したいのだが、そんな事をすればあの少年が泣き暴れる事がわかりきっているので、したくとも出来ない状況なのだ。

 

「……なんか静かかも………」

パタンと本を閉じ、膝の上にのせると、誰ともなくそう呟く。

窓から吹き込んでくる風が心地良く、カイルはふぅっと目を閉じる

「平和だよね……………」

 

しかし、そんな平和は長くは続かなかった………………………。

 

――――――――――バタバタバタバタバタッ!バタムッッ!!

 

「「「カイルッ!お前子供産んだんだってッ!?」」」

「は?」

唐突に、乱入してきた解放軍メンバー達に詰め寄られ、カイルは一瞬何が何やらわからなくなる、

そして、それに拍車をかけるかのように、同盟軍リーダーカナタの登場だ。

 

「僕の子供産んでくれたんですよねっッッッ!!!!!」

「カナタ?」

いつもの勘違い暴走ではなく、何やら訳ありの叫びっぽい。

―――だが、カイルには全く訳がわからないため、混乱は広まるばかりだ。

 

「うわっっ!お前その本っ!!」

「まさかたあー思ってたんだが、本当だとはなあ…。」

「おいっ!シュウしっかりしろッッッ!!(汗)」(←倒れたらしい。)

「カイルさーーーーーーーんッッッ!立派な赤ちゃんをありがとうございます〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!」

「ちょっ、なに???」

勢いでガバアッと抱き着いてくるカナタ、(コレはいつもの事)何やら叫びながらも納得してゆく元メンバー達。

そして、更に興奮は高まってゆく……………

 

「赤飯だっ!赤飯炊けーーーーーーーーー!!!!!!」

「いや!やっぱ酒だろっ!酒ッッ!!」

「祝電っ……」

「御祝儀っっ…」

 

ギャーーギャーーーーーと止まりそうにない騒ぎにカイルは無言になる…………そして―――

 

 

「――――――――ちょっと黙って、」

 

 

ピタッ、

先ほどまでの喧噪が嘘のように収まった………。

それもそのはず、口調こそは変わっていないが、漂うオーラが解放軍時代の物に戻っているのだから………。

ピンと張り詰めた空気が辺りを漂う…

3年経ち、元々の性格が現れてきたのだろうか、最近では丸くなってはいるが、あの時代の性格が全くなくなったかと言うとそういう訳ではないらしい。

―――しかし、そんな事を全く気にしない物が1匹……もとい、1人。

 

「わーーーーーーーんっっ!!名前はなんにしますかーーーーーーーーーッッッ!!!!!!」

「……カナタ…………(汗)」

カイルに抱き着いたまま、叫び続けるカナタ。

何やら理由があるのだろうと思い、カイルは尋ねる

「どうしたの…?」

 

「やっと追いついたーーーーーーー♪もーお姉ちゃん置いてっちゃダメじゃないっ!」

 

ふぅぇあふぅぇあっ、と泣きじゃくる赤ん坊を抱えたナナミが駆け込んでき、カイルは何となくため息を付きたくなってしまった………

 

 

 

んくんくんく…

 

「ほへ〜〜〜」

「ほぁ〜〜〜」

「…………(汗)」

 

カイルに抱かれ、必死にミルクを飲んでいる赤ん坊に、カナタとナナミは椅子の周りを陣取り興味津々な様子でじぃ〜っと眺めている。

さすがに、今母乳が出る者は城内にいないため、(当然カイルは出ない)ユズから牛乳を分けてもらいそれを暖めて与えているのだ。

「なんか手慣れてますね〜〜〜〜」

「さっき本読んでたから………」

「「ほえ〜〜〜〜〜」」

感心したようあ声を上げる姉弟を後目に、カイルはミルクを飲み終わった赤ん坊を縦抱きにすると背中を優しく叩きげっぷをさせる。

そんな様子を見ていると、誤解だと納得しているメンバー達も再び疑惑を抱きはじめる……………

 

『やっぱり産んだんじゃないのか?』と、

 

カイルは疑惑を解くため、(?)口を開いた。

「それで、どうしたの?この子………」

「え〜っと…」

「それが〜本拠地前で〜………」

 

シュウやフリックにしていた態度とは打って変わって、2人はぼそぼそとだが真実を話し出す、

ちなみに、シュウは瀕死ながらも、なんとか復活して立っている。

「あたしが箱見つけて、」

「開けたらコレが入ってたんです。」

ビシッとカナタは赤ん坊を指差し、そう告げる。

「カナタ…『コレ』って物じゃないんだから………(汗)」

「はーい。」

わかったようなわかってないような返事を返す、話はまだ続くようだ。

「それで、あたし達も捨てられてたのを拾われたから他人事じゃない気がして……」

「中に手紙も入ってました…」

手紙にはお約束な文句が書かれていた、

       ――――――訳あってこの子を育てられません、

            ごめんなさい、ごめんなさい…

 

「……………」

はあ〜と、皆一様にため息が洩れた。

「それで、どう為さるおつもりですか………」

胃を擦りつつ、シュウが尋ねる

「ヒルダさんとかに教わりながら、あたし達で面倒みるから〜」

「飼っていいですか?」

真顔なままでカナタ。

「カナタ、『飼う』って、ペットじゃないんだからね………」

何かが欠落していると思われるが、今は置いておこう。

 

暫く沈黙が辺りを満たす、

ナナミとカナタの縋るような(?)視線、そして機嫌が治ったのかカイルにあやされて無邪気に笑い声を上げる赤ん坊…………。

ビクトール達からも、いいじゃねえか、と促されついにシュウは口を開く。

「――――――――――――いいでしょう、……里親が見つかるまでの…」

 

「「やったーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」」

 

シュウの言葉を最後まで聞かずに、と言うか掻き消すように2人は声を上げる。

「やったね♪カナタ!」

「うん!カイルさんも喜んで下さい〜〜〜ッvvv」

「最後まで人の話聞いた方がいいと思うんだけど…………」

わきゃわきゃとはしゃぐカナタ達、後ろの方ではシュウはしゃがみ込み胃の辺りを抱えて苦しんでいる、それをフリックが慰める?が効果 はいまいちだ。

 

ようやく落ち着いてから、またもやカナタから問題発言がでた…………

 

「ところで、この子雌ですか雄ですか?」

「「「男の子女の子だろうがッッッ!!!!!」」」

 

まだまだ騒がしくなりそうな、同盟軍本拠地である………。

 

 

→つづく