Arabesque―将軍―

 

 

 

 ―――――普通の幸せが欲しくないか?

 

 近頃父上によく聞かれる

 普通って何だろう?

 オレにとって今の自分が普通だと思う

 でも父上にとって今のオレは普通じゃない

 普通なのに…これが普通であって欲しいのに…

 

 

 

 朝、起きて一番に顔を洗った。
 何か特別な事があるときに顔を洗うのは一種の儀式のような感じがしてすごく好きだ。
 何よりこの寒い朝に冷たい水で顔を洗うと一気に目が覚め、気が引き締まる。
 朝が弱いオレにとってこの儀式は目を覚ますための役にも立っている。
 ラックに放り込んであったタオルを取り、がしがしと顔と頭も乱暴にかいた。
 ふと、鏡の中の自分と目が合い、オレはにやりと笑った。

 何故か?

 今日、今までオレが欲してならなかった地位が手に入る。
 それを思うと笑わずにはいられなかった。

 通達が来たのは一ヶ月前。

 戦場でのオレの目覚しい活躍がお偉方の目に止まり、家柄も十分と言う事で昇進。
 今日、アガレス・ブライト皇王の騎士の洗礼を受け、正式なハイランドの将軍になる。

 「ハイランド王国、第4軍団将軍シード…か…」

 オレは自分名に酔いながら指先で鏡を撫でた。

 

 開け放たれた窓から春風が甘い花の匂いを運んできた…。

 

 

 

 

 

 「今日から第4軍に配属されたシードです。」

 式の後、オレは明日から配属される第4軍軍団長の元へ向かった。

 「ああ、私が第4軍を束ねる軍団長ソロン・ジーだ。」 

 貴族からの成り上がり上司、か…。

 オレはゆっくりとソロン・ジー軍団長を見た。
 銀髪を高い位置でまとめ、無駄の無い装備に腰には名刀。
 名刀は名刀でも只のお飾りではないようだ。

 貴族のお坊ちゃんとはいえ、それなりに頑張っているのか?

 僻みっぽい思考が過ぎる。
 それも仕方ない事だ。少しの努力でその地位を得ることのできる者を”はいそうですか”と簡単に認めてしまう程、オレはできた人間じゃない。
 しかし仕えるからには自分の役目をきちんとこなすつもりだ。

 「これからお世話になります。どうぞ宜しくお願いします。」

 安っぽい適当な挨拶をし、その場を立ち去ろうとしたオレをソロン・ジー軍団長が引き止めた。

 「お前の世話をする人間を呼んである。」

 オレの世話をする人間?

 「あの…」

 「言い方が悪かったか?お前の相棒だ。」

 相棒?
 副官じゃなくて、オレを世話する相棒?

 思わず吹き出しそうになった。

 オレの相棒だと?
 戦場で紅い鬼と言われ、恐れられているオレの相棒?
 一体誰に勤まると?

 自信過剰といえば、そうかもしれない。
 だが事実、学び舎にいた頃からオレに適う奴なんていなかった。
 軍に入ってからもそうだ。
 自分の剣技に絶対的自信を持つ奴が大勢いた。
 口ほどにも無い剣技をちらつかせ、偉そうに威張り散らしている奴等が…。

 どうせその類じゃないのか?

 顔に出ていたのか、軍団長が軽く俺を見て言った。

 「じきに来る。」

 待てない人間だと思われただろうか?いや、思われているのだろうか?

 苦笑いをしながらオレは頷いた。

 

 

 こんこん

 軽いノックが聞こえた。

 「入れ。」

 「失礼致します。」

 軍団長の促しによって入室した男は淡青の瞳に銀髪の黒い服を着たデカイ奴だった。
 170cmしかないオレには2mくらいに思えた。
 でも、一番印象に残ったのはそんな事じゃない。
 硬い…いや、冷たい表情…。
 青い瞳が奴の冷たさを露呈しているようにも見えた。
 はっきり言って今までオレはこんな人間を見たことが無い。
 端整な顔立ちであるがゆえ、無表情な冷徹さが浮き彫りとなっている人間を…。

 軍の上層部にこんな奴がいたとは知らなかったな…。

 野生の感とも言えるオレの第6感がちりちりする。
 オレにはわかっていた、こいつが只のえばり散らしている奴とは違い、強い事が…。

 「お前と同じ第4軍の将軍、クルガンだ。わからない事はこのクルガンに聞くように…」

 クルガン、か…。

 ソロン・ジーの紹介の後、オレは奴の前に一歩出て問うた。

 「お前強いだろ?」

 「さあな。」

 興味無いと言った様子で思っていたよりも幾分低いバリトンが返ってくる。
 聊かむっとしたがオレは続けた。

 「オレと勝負しろよ…」

 「時間の無駄だ。」

 視線を外し、ドアの方に向き直る奴にオレは更に言った。

 「負けるのが怖いのか?」

 「お前の事を思って言ってやっている。」

 奴は振り返らぬまま言い放った。
 それが酷くオレの癪に障った。

 「なんだと…」

 今にも掴みかからん勢いで睨みを利かすオレを奴は一瞥すると、小さく嘆息して言った。

 「どうなっても知らんぞ…」

 クルガンは軍団長と二言三言交わした後、オレに向かって只一言、ついて来い、と言った。

 

 

 

 これがオレとクルガンの出会いだった…。

 

 

to be continued>>>

 

 

 

中途半端ですね…。(汗)
しかし、続くから…まぁ良いかー!!(死)
上記の通り、管理人はかなりいいかげんです…。
楽しみにしてやろう!!と言う方、もし、いらっしゃいましたらすみません。
根性入れて頑張ります…。

紺野碧