Arabesque―衝突―
「では、始めるか…」
クルガンのその一言で二人はすらりと剣を抜き、向かい合った。
ぴんっと張り詰めた空気が辺りを支配する。
互いの鋭い視線が交差した。
如何切り込もうか、互いに互いの隙を覗った。
そんな中、シードの頭の中に警告音が鳴り響いていた。
なんて威圧感…。
向かい合っているだけで冷汗がシードの背筋を冷くする。
シードは自分の回りに纏わり付いて来る畏怖心を押さえ、クルガンと向き合っていた。
震えそうな手足に力を込め、負けるものかと精一杯クルガンを睨みつけた。
なんと強い光を称えた瞳だ…。
クルガンは自分と向き合い、プレッシャーに押し潰されまいときつく自分を睨む深紅の瞳に少なからず驚いた。
クルガンの地位や才能に嫉妬し、勝負を挑んできた者は数え切れないほどいた。
そういった人間をクルガンは今まで何人も見て来た。
その勝負を挑んできた身の程知らずとは違う瞳。
真に強い者の瞳だった。
向かい合ってどれほどの時が経ったであろうか、シードには時間が2倍にも3倍にも感じられた。
微動だにせず互いの隙を測る。
いや、クルガンはシードから目を離さないでいるだけだった。
自分から仕掛けるつもりは全く無く、シードがどういう風に出るか興味があった。
余裕のある心情がシードとは異なっていた。
負けるかもしれない…。
向き合う内に、そんな弱気な考えがシードの頭の中を通り過ぎた。
しかしそれらを無理矢理押さえ込み、シードは剣を握る手に力を込め、クルガンに向かって一線を振るった。
ぎぃいいん
「はっ!!!」
幾度か刃を合わせた後、一歩後退したクルガンに好機と見たシードは一気に間合いを詰めるとその剣を振るった。
左下から鋭い弧を描き、シードの剣がクルガンの胸に届くその前にクルガンは半身をずらし、その剣をぎりぎりの所でかわした。
それを予測していたシードは剣の向きを変えた。
振り上げた剣を無理矢理に、だが、勢いよく振り下ろし、クルガンの脚を狙う。
しかし次の瞬間、シードは左腹部に激しい衝撃を感じたと思うと右に吹っ飛ばされた。
右半身と地面が激しく摩擦する。
シードは5・6m離れた場所まで飛ばされていた。
「っつぅ…」
起き上がろうとしたシードの口から呻き声が上がる。
裂けた服の下から見える腕は、皮膚が裂け、血が滲んでいた。
そして、左腹部の重い痛みに足元がふらついた。
「甘いな…」
剣の柄をシードの腹部に叩き込んだ張本人が冷笑を浮かべてその様子を見ていた。
その余裕綽々の態度にシードは苦虫を噛み潰した。
「…るせぇ…」
ぎりっと奥歯を噛み締め、クルガンを睨むと再び剣を構えた。
「何度やっても同じ事だと思うが?」
「そんな事…、やってみなくちゃわかんねーだろっ!!!」
そう言ってクルガンに向かって走る。
そのスピードが先程よりも劣って見えるのは気のせいではなく、クルガンによって打ち込まれた腹部への一発が足にきているのであろう。
だが、シードに引く気はないらしい。
そうでなくては、な…。
クルガンは薄く笑うと剣を構え直した…。
「納得したか?」
剣を鞘に収めながら、淡々とした口調でクルガンが言った。
シードに何の感情も無い眼差しを向けて…。
クルガンに一太刀も浴びせられないままシードは突っ伏していた。
一太刀を浴びせるどころか向こうは切り付けてもこなかった。
その事がシードのプライドを滅多打ちにした。
返り討ちにされる度に増えた傷よりも心が痛かった。
悔しい…
シードは土を握り、腕に力を込めると上半身を起こした。
唇を血が滲む程噛み、手探りで近くに投げ出された剣を探し当てるとその柄を握った。
それを振るう体力は最早無かった。が、それでもシードは立ち上がった。
剣を杖代わりに大地に突き立てると両の足に力を込め、立ち上がった。
「お前も大概しつこいな…。」
渋い顔をし、クルガンはシードに近づいた。
がくがくと笑う膝に力を込め、シードが剣を構える。
クルガンのその足がぴたりとシードの前で止まった。
シードが顔を上げたその瞬間、クルガンはシードの鳩尾に拳を叩き込んだ。
「!!!…っくしょ…う……」
薄れゆく意識の中、シードは一筋の悔し涙を流した…。
崩れ落ちるシードの身体をクルガンは抱きとめた。
そして、泥にまみれた顔に一筋の涙が伝っている事に気付くと苦笑した。
手の掛かる奴だ…。
シードの身体をその肩に担ぐと訓練場を後にした。
つーか、シード弱い…?(笑)
でも、クルガンはこのくらい強いのが希望です♪
シードは弱くてもいいんかいっ!!(殴)
紺野碧