Arabesque―戦慄―
さらさらと流れる大河。
その辺にシードは佇んでいた。
何をするわけでもなく、じっとその流れを凝視していた。
物思いに耽っているようにも見える。
だが、一点を見つめる瞳からは何も感じられない。
夏に気温がじっとりとその握り込んだ手に汗を滲ませる。
向かいの岸に彼岸花らしき赤い花が咲いているのが見える。
その彼岸花の赤が妙に眼に染みた。
シードは眼を細め、彼岸花を凝視した。
真摯な眼差しで…。
風が、吹いた。
「シード将軍。」
背後からの声でシードは現に引き戻される。
瞑目するように一度瞼を閉ざし、ゆっくりと開く。
一際激しく吹きすさぶ風が紅い髪を乱す。
「…時間だ。これより我が隊は山賊の砦へと攻め込む!」
静かな、だが朗々とした声でシードが振り向きざま指示を仰ぐ。
それが戦の合図だった。
「いいか、残らず壊滅させろっ!!!」
紅い髪を振り乱し、勇んで剣を振り上げるシードに呼応するよう、兵士は奮起した。
ハイランドの山奥に身を潜めていた山賊。
この度の使命はその山賊を殲滅させる事。
大きくなりすぎた山賊が国に対してデカイ態度に出たのだ。
それを放って置くほど甘くない国は、山賊退治に乗り出したのだ。
しかし、たかが山賊退治に将が出向く事は珍しい。
左遷類ではない。
志願したのだ。自ら。
シードが指揮するには理由があった。
理由、と呼べるものかどうかはわからないが、シードは兎に角戦場に出たがっていた。
いや、戦場へ出たかったと言うよりも、ルルノイエを出たかったのだ…。
それに付け加え、山賊同士が手を結んだ、という報告が入り、今回の出撃となったのだ。
「たかが山賊だと思って油断をするなっ!!!」
馬上から率先し、敵をなぎ倒しながら兵士を叱咤する。
いつも冷静とは言い難いシードだが、今日はより感情的と言えるだろう。
何所か苛立ったように振るう剣は数段荒々しい。
戦いは思ったよりも激化し、山賊の砦だけでは首領格の男を追い詰める事は出来ず、近隣の村をも巻き込む戦いとなった。
何所に隠し持っていたのか、戦力が調べよりも多かった。
紋章の使い手がいたのか、盗品の中に札が多く含まれていたのか…紋章による攻撃も、見られた。
「梃子摺らせてくれるな!!!」
舌打ちし、首領格の男を捜す。
所詮は山賊、頭さえ叩けば後は烏合の衆。
統率された動きも出来ぬ者達に勝利は無い。
そう思い、混戦した状況で必死に視線を巡らす。
だが、そう簡単には見つからない。
また、苛立ちがシードを襲う。
兵士、山賊、…村人。
怒声と悲鳴が入り混じった戦場。いや、戦場となった村。
無残にも家は焼き払われ、人は切り殺されている…。
村人の死骸が目に付いた。
恐怖に目を見開き、涙を流したままの死骸。
女子供、関係無しに殺されている。
やり切れない思いと漠然とした怒りが込み上げてくる。
それらをぶつけるようにシードは剣を振るった。
はやく はやく はやく
終わらせなければ…
これ以上の犠牲は…
無関係な人間を巻き込む心苦しさから生じる焦りを抑えながら、襲ってくる山賊を切る。
―――――KILL&RUN
暫くそうした後、真正面に一際身体がでかい、大刀を振るう男が目に入った。
兵士、村人を関係無しに切り殺す男。
―――――見つけた
口元に勝利を確信した笑みを零した。
奴を討ち取ればこの戦いも終わりだ、という笑みを…。
だが、その時、視界の端に幼い子供が映った…。
とても幼い少女だ。
親の姿が見られない。
巻き込まれて死んだのか、子供を置いて逃げたのか…。
血にまみれた大地に座り、泣いている。
山賊の親玉らしき男が大刀を振り翳す。
少女の表情が凍った。
目尻が切れんばかりに眼を見開き、恐怖する少女。
血の滴る大刀を振り翳す男の残虐な笑いに心臓が激しく波打った。
記憶がフラッシュバックする。
考えるよりも体が動いていた。
いつかの”あの人”のように…。
「シード将軍っ!!!」
部下の悲鳴のような声を背に受けながもシードは走った…。
あははん…。(滝汗)
クルガン出番ナッシング☆(死)
やはり戦場シーンは好きだなぁ…。
しかしもっと上手く書けんのか、私は…。
う〜ん、精進致しますv(^−^;)
紺野碧