Arabesque―月光―

 

 

 

 まだ、夜明けの遠い、しん、と静まり返った城。
 その一角にある猛将の自室。
 その床に衣服が脱ぎ散らかされていた。
 服は、白を基調とした緋のラインが入った軍服。
 シードの軍服だ。

 脱ぎ散らかしの中心地となるベットに人影が見える。
 横たわる女は紅い髪を白いシーツに散らし、小さな寝息を立てて眠っていた。
 唇を薄く開け、深い眠りについている。
 幸せそうな寝顔とは言えない…。
 その頬に、幾筋もの涙の跡が見て取れた。

 

 

 半開きのカーテンから時折射し込む月の光。
 その眩しさにシードはうっすらとその双眸を開いた。
 窓から月が覗いていた。
 時々、雲に隠れながらも柔らかい光を室内に齎す。
 その優しい光に惹かれる様に、幾度か目を瞬かせ、ゆっくりと開く。

 クルガンはもう既にいなかった。
 ぱたりと手を置いたシーツは冷たく、随分前にいなくなった事を物語っていた。

 寝返りを打つとシーツが湿ってるのか纏わり着いて来る。
 うつ伏せになり、口から大きく息を吐き、鼻から軽く吸い込むと、匂いがした。
 汗の匂い、饐えた匂い、そして…ひどく安心する匂い。

 何となく物悲しさを感じて枕を抱きしめた。
 何が淋しいのか、シードには解らなかったが、兎に角、枕をきつく抱きしめた。
 その枕からも同じ匂いがした。

 (何だろう…すごく安心する匂い…。)

 ぼうっとする頭を振り、上体を起こしたシードは自分の裸体を見て、慌ててシーツを引き寄せた。
 幾つもの赤い花がシードのしなやかな身体の至る所に咲いていた。
 花…情交痕は赤黒くなり、痛々しいまでにはっきりと残っていた。
 吃驚したと同時に一気に覚醒する。
 混乱する中、立ち上げろうとすると下半身が思うように動かなかった。
 いや、下半身ばかりではない。
 シーツを握る手の気だるさ、全身を襲う脱力感。
 腰に残る鈍痛…そして、甘い痺れ。
 それらがアレが夢でない事を物語っていた。

 (そっか…オレ、クルガンと…)

 そう、思い返した時、情事の一環を思い出し、その頬を朱に染めた。
 忘れようとするように激しく頭を振る。
 だが、逆にどんどん思い出される。
 頭が忘れ様としても身体が覚えているのだ。
 堪らず、シードは熱くなる顔を押さえた。
 忘れ様と必死の思いで目を瞑ったのが逆に仇となった。
 瞼の裏側で、より鮮明に思い出される。
 そして、顔よりも身体の方が、だんだんと熱くなってきた。
 顔を覆う手を肩に移動させる。
 自分自身を抱きしめるように、その肩を力を込めて抱いた。
 その時、ふと、手首に残る痣を見つけた。
 縛られた痕だった。
 両手首にくっきりと残っていた。
 そっと、それに触れてみた。
 青紫色の痣は、まるで囚人の証のようだった。

 熱い、思いが込み上げてきた。
 それがどういった思いなのか、心の中がぐちゃぐちゃで、整理がつかなかった。
 頬に熱いものを感じ、指で触れてみる。
 涙が伝っていた。
 何に対する涙なのか、シードには解らなかった。

 クルガンと寝た事に対する後悔の涙なのか。
 今となっての恐怖の表れなのか。
 全く異なる、別のものなのか…。

 理解できずとも涙は止めど無く溢れてくる。
 頬を伝ってはぱたぱたとシーツの上に幾つもの水滴が落ちた。
 嗚咽が咽をつく。
 シードは声を殺すようにシーツに顔を埋めた。
 そのシーツから、僅かにクルガンの匂いがした。
 それが、更に涙を誘い、シードは涙が涸れるほど、泣いた。

 その様子を、月だけが哀しげに見ていた。
 冷たい印象の月が、優しい光を称え、雲間から覗いていた…。

 

 

to be continued>>>

 

 

ぎゃふん。
や、もう…何が何やら…。(汗)
あー、うー、えー。(悩)
…まだまだ続きますvえへvvv(死)
…ちゃんと終わるんだでしょうか…。(殺)

紺野碧