いつもよく見る、現実に負けず劣らずとても幸福な、「彼」の登場する夢。

だけど今回は珍しく違うものを見た気がする。

それがどんな内容だったかは、覚えていない。しかし覚えていないという事が、却って、すぐにやって来る未来の事件を示唆していたのかも、知れなかった――。

 

 

 

 

Scene 1:一瞬の誤算。

 

薄暗い青を纏った空。輪郭のぼやけた月が、まだ淡い光を地上に注いでいる。

日の出にはまだ少し時間のある、鳥もまだ鳴かぬ暁闇の刻だ。

カナタはベッドに横たわったまま、ぼんやりと窓の外を見つめながらそう思った。

そして静かに寝返りを打つ。

すぐ傍に触れる、もう一つの人肌。微かに耳に届くのは、自分以外の穏やかな寝息。

…ああ、これはいつもの幸福で幸福な夢の延長だろうか。でなければ、いつの間にか自分はこの人の下へ戻って来ていたのか。

自分でベッドに潜り込んだ記憶も、その前後の記憶もなかったが、

「彼」が隣にいるのだ。そうなのだろう。

 

「カイルさん……」

 

こちらに背を向けて眠る、最愛の人の名を呼びながら、毛布から出ていた彼の肩をそっと手の平で包み込む。上着もなく毛布すら被らずひんやりした外気に晒されていた肩は、思ったよりも冷たくなっていた。

冷えた肌を、カナタは温めるように優しく撫でる。

すると、寝息に混じって「ん…」という声が聞こえた。起こしたのかと思ってカナタが思わず手を離すと、しかし彼は少し身じろいだだけで、もぞもぞと寝返りを打つ。

そうしてまた、薄闇に包まれた寝顔からは穏やかな寝息が聞こえ始めた。

 

空に浮かぶ月は僅かに位置を変え、先程までは床を照らしていた月明りも今は枕元に淡い光を落としている。少しだけ身を起こしたカナタの背後からちょうど光が差し込んでいる形で、だから、眼前に横たわる彼の横顔は微かな月光さえ浴びていない。

カナタ自身の影と、更には少し長くなった黒い前髪の奥に隠されている、ぴったり閉じられた二重瞼。形の良い楕円のそれが、今、無性に見たくなって、カナタは指を伸ばした。

サラリと柔らかい黒髪の感触を指先で感じながら、けれどカナタは閉じられた双眸を覗き込むのではなく、安らかな寝息を紡ぎ出す彼の薄く開いた唇に、

ゆっくりと自分の唇を、近付ける。

 

「愛してますよ…カイルさん……――カ、」

「…ん……?」

 

吐息が、あともう少しで互いの唇に触れる。瞳を閉じるその直前、カナタが薄闇に溶けた愛しい人の顔を間近でハッキリ見たのと、その彼の瞳がうっすら開いたのとは、

 

ほぼ同時――であった。

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃー!! 人違いです―――――っっ!」

 

 

 

 

 

 

 

脳天突き抜けるような悲鳴が、一番近くにいながらもまだ夢見心地だったユノの耳に、うっすらとだけ、聞こえた。

 


注意:この話は野依さんとの合作v『三年目の浮気ぐらい大目に見ろよ〜♪』な浮気(?)ネタですvv(吐血)

合作系も浮気ネタもダメだー!;っていう人は、ここでバーック☆…でも、しょせん、うちの2主ですから、オチは…まあ、予測範囲でしょう。(笑)<まだ未完な為、とんでもない所で、止まっています>

この色が野依さん、この色が海月担当地区です☆…ちゃんと分けろやー!言われたので…(笑)


 

Scene 2:一瞬の油断。

 

 

その日、アイギス城の城主イチハが漸く職務を終えたのは暁の刻である。

さすがに欠伸を噛み殺せずに、イチハは真っ暗な廊下をのろのろと歩きながら目に涙を浮かべた。眠気も極限を越えるともはや眠気とは認知されず、ただ限りなく気分が悪い。

 

「明日は…トラン国の和睦会が午前から……、…ーと、どこの視察だっけ…」

 

…駄目だ。思考が正常に働いてくれず、もう頭の中は、あの天蓋付き大ベッドの何とも言えない柔らかさだとか、ふかふかの枕に顔を埋めた時のあの堪らない心地良さだとか、鼻をくすぐる日なたの匂いだとか、そんなもので一杯一杯だった。

空腹時、炊きたての白米や肉汁たっぷりのステーキが脳内を過ぎるのに、似ている。

 

(……そう言えば…、)

 

深夜、最後にシュウが仕事中のイチハの下へやって来た時、彼は出て行く前に確か何かを言っていたような気がする――けれど、眠気に負けまいと目の前の書類に集中し切っていたから曖昧にすら覚えていなかった。

…ともかく、今は睡眠を何より身体が欲している。気を抜けばうっかりこの場で立ったまま眠ってしまえそうなぐらい、超強力な睡魔をイチハは今背中に張り付かせているのだ。

自室まで、この階段を登り切れば残りあと数メートル…途中で力尽きたところを見回りの兵士に発見でもされれば大事になるし、たかが睡魔に負けたなどとは思われたくない。

ここさえ乗り切れば、後はもう、至福の一時が待っているのである。

イチハはペチペチと自分の両頬を叩きながら、目の前の最後の一段を上がり切った。

 

―――瞬間。

 

下の階のどこかの部屋から、妙に聞き覚えのあるような悲鳴が聞こえてきたのである。

さすがに、城の主であるイチハが聞かなかったフリをする事は、出来なかった。

 

「っ……ったい何だって言うんだよ…!?」

 

朝日が昇るまで再び通る事はない筈だった階段を、イチハは一気に駆け降りる。

…しかし、放っておけば放っておいたで、見回りの兵士もあの悲鳴を聞き付けている筈なのだから別 段城主自身がわざわざ急いで現場に駆け付ける理由も、ないと言えばない。

けれど、そこは生来真面目な性格が祟っていて、位置関係からしても見回りの兵士より自分の方が早く辿り着けるのなら、そうしなければいけないという――ある種の強迫観念のようなものが不幸にもイチハの内部にはあったのだ…。

先程まであれだけ睡魔に襲われていたというのに、イチハは一瞬で悲鳴の遠さと方向を正確に計算し、迷う事なく三階にある部屋の一つの前まであっという間に到着していた。

扉の向こうからは、まだ悲鳴に近い声が途切れ途切れ聞こえている。

 

(何なんだ、一体! …って言うか、客間に泊まる客なんて今日いたか…!?)

「どうしたんだ!? 何があった!」

 

ともかく、イチハは鍵の付いていない扉を力任せに押し開いた。

 

「あ、」

「…あ?」

 

 

 

 

間。

 

 

 

 

一つのベッドに。

二つの人影。

ベッドサイドを蝋燭が照らす、

その、相手の顔は――。

 

 

 

 

 

 

イチハは、この時こそ、 見なかったフリというものを決行した。

…いや、正しくはしたかった、だ。

結局の所、そんな簡単な現実逃避は出来なかったのだから………

 

 

「あう゛;…い、いちはさん…;」

「…………」

陳腐な表現になるが、頭をカナヅチで殴られたような衝撃が走っていた。

足元はふらふら、どうして自分がこの場に立っているのか、それすらわからなくなってしまう程の自己喪失感。

あくまで冷静になろうとすればするほど、トライアングルを鳴らすように衝撃がぐわ〜んぐわ〜ん…と、頭の中でリフレインする…。

 

…そう、今目の前には自分があれ程恋い焦がれていた(天蓋付きとまではいかないが、)ベットがある。

しかしその上には、何故かカナタとユノが一緒に寝ていて…いや、それだけならいい。いやよくないが、(なんでカナタがいるのか不明だし、ユノが勝手に泊まってるのかも気になるし)

 

…二人は裸だった。

 

「………」

「………(滝汗)」

しかも、カナタはユノに覆い被さるような体勢で、今にも口付けを交わしそうな程の距離をとっていた。いや、きっとする所だったのだろう。髪に指を絡め掻き上げ、頬に手を当てている体勢など、そう偶然にとれる物ではない。

白い肌を露にしたユノは、どこか疲弊したようにも見える表情で柔らかな寝息を立てていた…。

そしてその露になった肌には、鬱血したような痕が雪色の肌を所々紫に染めつけ、小さなアクセントを加えている………

そしてカナタには、(こちらから見える範囲では)腕やら首やらに、軽く引っ掻いたような裂傷と、赤い痕が残っている………

「…、」

コクリ、と喉が鳴った。

この時程、自分のよく利く夜目を怨んだ事はない…。

ユノは、規則正しい吐息を吐きながら、「…ん……んんぅ…ん、」と艶っぽい声を出した。

 

…これがどういう事か理解出来ない程自分は子供ではないはずだ。

 

「………」

「い、いち゛はザン…;(混乱の極み)」

ギッ…ギギィ…

そんな音が立ちそうな感じでイチハは、方向を180度回転すると…

 

物凄いスピードでその部屋から立ち去った。

 

「あーーーーっ!;まって下さい〜ッ!!(泣)誤解ですーーーっっっ!!(号泣)」

 

 

 

 

 

 

Scene 3:一瞬の判断。

 

 

一体何がどうなっているのか、それはカナタにもわからなかった。

イチハが混乱しているのと同じくらいには、この少年も混乱しているのだ。

(一体何がどうなってるんですかッ!?えっ!えっ!?>泣)

もはや少年は、半泣きだ。

しかし泣きながらも、カナタは無意識の内に逃げるイチハを必死で追い掛けている。

 

そして…先程は反射的に誤解だと叫んだが…こんな状況で自分の身の潔白が証明出来る程、自分自身を信用出来なかった。(しかもさっき、間違えてちゅうvまでしかけたのだから…)

だから、なんとしてでもイチハを確保し、とにかく情報の流布を防ぎたかったのだろう。(…ただ単に、相手が逃げたので追い掛けたのかもしれないが、)

「わーーーんっ!!(泣)お願いですーっ!待って下さいーーっ!!;」

一人にしないで〜っ!とばかりに、カナタは叫んだ。

ある意味恋人同士の喧嘩のようで微妙な感じだ。

…まあとにかく、カナタはイチハを追う。

追う。

追う。

追う………のだが、相手は走っている様子ではないのに、何故か追いつけない。とんでもない速度で、もはや歩いているとは言い難い早さで歩いているらしい。

早歩きのイチハの背中は、遥か彼方に遠去かり、カナタが追っているのはただ、カツン!カツンカツン!カツン!カツンカツンカツンッ!という(物凄い)足音だけだ。

「ひぃ〜〜〜!!(泣)」

どこに行くつもりなのか知らないが、このままイチハを逃がしてしまったなら、とんでもない事が起こりそうな気がする。

そう考え、カナタは必死で後を追った…。

角を曲がり、床を滑り、調度品を壊し、息も荒くイチハの後を追いまくったのだが…

 

 

「ルック、テレポート…」

 

 

…追い付いた時、そのイチハの姿は、一瞬ののちに、ルックと共に掻き消えてしまった。

「ギャーーー!(泣)」

頭を抱えて絶望の絶叫だ。

しかし、そう叫んでばかりいられない…。カナタは叫び終わると、必死にビッキーを起こそうとした。

「ビッキー!;ビッキービッキービッキーッ!;起きて!頼むから起きてッ!起きて下さい〜〜〜っ!!」

「う〜ん…♪むにゃむにゃ…vワフ……」

 

…まったくの無駄だったが。(しかも他人の城のビッキーだ…)

 

 

 

 

 

 

その後、一体どうして、どうやって、部屋に戻って来たのかわからない。

しかし自我が少し戻った瞬間には、元の客間のドアノブに手をかけていたのだ。

「あ〜…う〜…かゆ、うま……」

…まだ混乱と放心の中にいるらしいが、とにかく少年は、部屋の中に入ろうとした。

とりあえず、朝になるまではビッキーが起きるはずもなく、諦めて部屋で待機の形になる。どいあっても起きなかったビッキーに、カナタは水を頭からぶっかける事もなく、泣く泣く諦めたのだ。…彼女が女の子でなかったならば、確実に容赦のない拷問が行われただろう。

カナタはどこか焦点の合わない目のまま、部屋の中に入り、そして後ろ手に扉を閉めた。

―――と、その途端、中の人物と目が合った。

「ん…おはよ?」

…。

半裸なユノの姿…。

ユノはベッドの上に、起き上がって座っていたのだ。

…そう、ようやくカナタは今ここで、相手も自分も半裸状態である事が飲み込めた…。(そして、謎の痕がある事も)

ついでにいうと、自分が半裸で廊下を走り回っていた事も認識した。

ギグシャクと唇が痙攣したように動く…

「おっ…」

「お?」

カナタの呟いた言葉に、ユノは首を傾げる。

 

おはようと朝の挨拶が続くのかと思いきや、

 

 

「覚えてないんですーーーーーーーーーーッ!!!!!(号泣)」

 

 

す〜!

すー!

すー…

とエコーが部屋中に響き渡る…。

 

ギャース!とばかりに叫んだ少年は、頭を抱え、真っ青な顔で床にへたりこんだ。暫くは、立ち上がる気力も出ない事だろう…。

 

 

→続く!