この色が野依さん、この色が海月担当地区です☆


 

「と…取り敢えず悠長に寝てる場合じゃないですね…」

伝令を終えた兵士が何故か怯えた様子で慌ただしく部屋を出ていく姿を見届けた後、イチハはまだ鉛のように重い上半身を、しかし何とか起こしてカイルを仰ぎ見る。

「カイルさ――…、…ッ!」

言葉が詰まった。

「……………」

「あ…の、…カイル…さん……?」

「……………」

「……………」

「……………」

「……………;」

流れる数秒間の沈黙。

…駄目だ、今のカイルさんにだけは2人を会わせちゃいけない…。

イチハはじっとりとした嫌な汗をこめかみに一筋流し、自分が何とかしなければ! と強く思った…。

 

 

 

 

Scene 7:一瞬の画策

 

 

 

 

「何かカナタ君の城ってざわざわ煩いね。いつもこうなの?」

既に噂が充満し切った城内は耳を塞ぎたくなる程に騒がしい。本当に耳を塞ぐまではしないが、それでも耳障りなその音に、珍しくユノが微笑を消して眉をひそめた。

「しかもタイミング測ったみたいに“えれべーたー”が故障とはね…。もしかしてカナタ君、前から僕に恨みでもあったのかな?」

「冤罪ですーーー!!!!!(涙)」

「あはは」

これまでのちょっとした時間のロスの積み重ねが気に入らないのか、どうやらユノはカナタを苛める事で少しでもストレス解消しようとしているようだった。しかし本気とも冗談ともつかぬ 顔で棒読みに笑う姿などはもう、どちらかと言うと本気寄りに思えなくもないが…。

「はっ、あれは!!!!?」

カイルが普段から寝泊りしている一室へ通じる廊下の先に、見覚えのある人物が仁王立ちしている。

まごう事なくそれはイチハだった。カナタ達が追い付くまでの時間に睡眠を得られたのか、疲れた目はしていなかった――が、何故か切迫した顔をしている。ユノとカナタが浮気したとイチハが勘違いしているとして、けれど嫉妬しているという風でもない。

「…カナタさん…、……ユノさん」

声まで擦れている。

そう言えば身のこなしにいつも気を使っているイチハが、今はどうしてか着崩れていた。髪もボサボサで、いつものイチハらしくない。

そんな出で立ちで、気まずいような顔で、5時間前はあんなに逃げた彼が、まるでカナタ達を待っていたかのようではないか。

―― と、そこでカナタの頭に一つの単語が浮かんだ。

「まさか…っイチハさんもカイルさんと浮気を!!!!!!!?」

「んな訳ねえだろ!(汗怒)」

即座に否定られた。

「イチハにそんな甲斐性あったら僕もこんなに苦労しないんだけどなあ…」

更にはユノもぼそりとそんな事を言う。

「そーですか…なら紛らわしい言動取らないで下さい!!」

自分の事を棚上げに、カナタはびしっとイチハを指差した。イチハは何か反論したそうに一度口を開いたが、躊躇うような仕草を見せ、口を閉じてしまう。数秒だけ視線を泳がせて漸く決心がついたのか、再びカナタ達を見据え口を開いた。

「どういう事か…説明してくれますか?」

「どうもこうも、覚えてないんだよね…二人とも…」

瞳を伏せるユノ。

「え、ちょ……っ嘘でも良いから否定してくださいーーーーー!!」

しかも何でそんな意味ありげな言い方をーー!?(涙)と叫ぶカナタだが、ユノもイチハも反応らしい反応をしてくれない。

「そうですか…」

「うん…」

しかも勝手に「浮気した」事が前提みたいな雰囲気となっている。

ユノの策略なのだろうか?

「ごめんね、イチハ…君が僕をすごく大切にしてくれてた事は知ってた…でも、それがこんな事を招くなんて……」

「ユノさん…」

「淋しかっただけなんだ…イチハは仕事だから仕方がないって自分を言い聞かせてたけど…でも…僕……」

「ユノさん……っ…」

 

昼ドラだ。

カナタは少し離れたところから二人の様子を眺めつつ、そんな事を思った。

しかしよくよく見てみると、イチハの腕の中で涙を流している筈のユノがチラリと濡れていない瞳でカナタに視線を返したのである。

 

(早く行け)

 

そう言っているように感じた。

(ユノさん…ナイスです!)

心中でガッツポーズを送り、カナタはこそこそとイチハの横を素通 りする事に見事成功したのであった。

 

 

 

 

 

Scene 8:一瞬の死線

 

 

何とかカイルの元に行ける事になったものの…

 

(ひぃいぃ〜;)

 

部屋に近付くごとに辺りに満ちる空気が変わって行く…。

悪い方へと。

―――これは、所謂『殺気』だ。誰のものかは言わずと知れた感じの…。

「おっ…怒ってます!;怒ってますよーカイルさんッ!;クソーッ;イチハさん喋りやがったですねーッ;」

混乱の為か、余裕のなさのせいか、少年は少々地の混ざった口調で叫ぶ。

ガラが悪いが、この場合はまあしょうがないかもしれない…。何故なら、少年の言葉を借りたならば『愛の危機』なのだから。

「イチハさんなら浮気をした事をわざわざ言い付ける根性ないって…ゴフゴフ!;…たりしないって!心の奥底では信じてたのに…っ!裏切りましたねーッッ!!(泣)」

そんな事を信じられても困る。

一人で叫ぶカナタの姿は、かなり怪しいものがあったが、その叫びを上げながらも…部屋に近付く速度は徐々に遅くなって行く。

(カイルがいるはずの)自分の部屋に近付くごとに、人の気配…生き物の気配がなくなり、それに比例して殺気が増して行くのだ。

およそ通常の神経を持った者なら、どうあっても近付くような場所ではなくなっている。

カナタも普段ならまだしも、今は浮気した(かもしれない)という弱みがある為に、寄り付きがたい雰囲気だ。

(ああッ…;普段なら絶対に誤解だって言えるのに…!!)

朝寝ぼけてユノとカイルを間違えた所な為、自分が信用出来ないカナタだ。

記憶はないが、ユノとカイルを間違えて食べちゃわなかったとどうして断言出来るだろうか…?

(ああ…でもカイルさんが嫉妬☆とかしてくれると嬉しいかもしれません…vこう、「ユノさんに何て事…!」とかの怒りじゃなくて〜♪「カナタの馬鹿…!」とか〜☆―――いやじゃなくて!;今はとにかく!まずはカイルさんに会って、何だかんだと謝らないと…!!)

意を決し、ようやく見えた自分の部屋のその入口に…そっと手をかける。

そして、カナタは素早く中に滑り込むと……!!

 

 

「カイルさん!!ごめんなさいですーーーッッ!!(汗)」

 

 

物凄い勢いで土下座をした。

部屋に入った途端、前転の要領かつ流れるような動作で、少年は床にはいつくばった…まさにローリング土下座だ。もし観客がこの場にいたなら、拍手くらいはくれたかもしれない。

 

が、しかし。

 

次にカナタを襲ったのは、脇腹に走った鈍い痛みと奇妙な浮遊感だった。

「―――ゲフッ!!?;」

カナタは、そのまま部屋の壁にぶつかり、崩れるように床へと転がる。

一体何があったのかと、奇妙に歪んだ視界で無理に顔を上げると………………カイルが立っていた。

ただ立っているだけではなく、まるで今一撃を放ったばかりのように棍を構えている。

………………アレで、床にはいつくばった人一人を、宙に舞う程の威力で攻撃したのだろうか?

「か…カイルさん…?」

「………」

口の中が鉄臭い。

ぶつかった壁には、べったりと出たばかりの赤い鮮血が付着してしまっている…。

 

―――――ヤバイ…!;

 

生き物としての本能的な部分が、そう警鐘を鳴らす。

カイルは、明らかに怒っていた。

(よ…予測以上ですッ!!)

しかし、自分でもどうして、何故怒っているのか…その『嫉妬』という感情を理解していないのだろうカイルの、その黒い焔を宿した瞳は戸惑いと怒りで交互に揺れている。

…一触即発。

危ういまでの均衡で感情が揺れている。

これはまずい、明らかに殺される。

今のカイルは、完全に自分を殺そうとしている。

(ま、マズイです…!;カイルさんの為にも死ぬ訳には行きませんッ!!;)

矛盾しているようだが、今怒りに我を失っているカイルに殺されると…自惚れのようだが…後で我に返ったカイルがどれ程悲しむかわからないのだ。

―――まあ、今この瞬間はスッキリするのは確実だろうが。

 

「………カナタ…」

 

ポツリとカイルが口を開いた。

その口調はとても冷たい。

「は、はいッ!;ごめんですッ!?(滝汗)」

カナタの声に、カイルは何かを言おうと唇を動かしたものの…胸の内を言葉に出来なかったらしく、唇を閉じた。

…そして、開く。

「――――ごめんね?」

「え?;」

カイルは抑揚なく謝った。

「何故かはわからないんだけど…どうしても…うん、後で理由は考えるから…」

「かッ…カイルさーんッッ!!?;」

 

カイルの瞳が殺気一色に塗り替えられた。

 

 

「ソウルイーター!――――吸え。

 

 

「ギャーーーーーッッ!!!!!;」

 

 

 

少年に残された道は、ただ逃げて生き残る事しかない。

―――DEAD OR ALIVE?

生と死をかけた戦いが今始まった…。

 

 

 

→次でラスト!